
混沌、そして見知らぬ土地のエキゾチックな輝き。
名画「カサブランカ」(公開1942年)に描かれたそんな時代を経て、青く広がる大西洋岸の白い街は今、ガラス張りのビルも眩(まぶ)しい近代的な経済都市に成長している。この街で富を増やしたブルジョワ層が見出した憧(あこが)れは、海の向こうではなく、内陸の赤い迷宮都市・マラケシュだった。当初は欧米で注目されリゾートとして急成長したマラケシュは、今やこうしたモロッコ人ブルジョワ層の別荘の建設ラッシュでちょっとしたバブルにわいている。

そんなホットな街の旧市街にあるのがにぎやかな「スーク(市場)・スマリン」だ。モダンな新商品が並ぶ影で伝統的な商売も営まれるこの通りで、小さいながらも20年来モロッコ製革製スリッパ、バブーシュの店を営むのがヌシワ・ノルディンさん(44)。
モロッコでは一つの物が仕上がる工程で分担が細かく分かれている。バブーシュなら、皮をなめす人はなめしだけを、染める人は染めだけを。模様つけは女性が行い、靴の形に成形するのは専門の職人が……。完成した商品は、さらに「デッラール」と呼ばれる仲介人によって商店に持ち込まれ、その時のトレンドに応じて卸されて、ようやく店頭に並ぶことになる。

接客にあたる店員と相談しながらトレンドを読んで入荷数を決め、いい商品の納入が少なければ職人に発注をかけ供給と販売のバランスをとるのが店主のノルディンさんのおもな仕事だ。

実際の販売は、若い店員のセールストークにかかってくる。
「ボンジュール、マダム! 冷房の効いた靴をお探しですか? ならぜひ当店へ!」
暑い国らしい冗談もまじえながら、楽しい買い物の時間を提供するのがモロッコ流。
「2つ買っていただければ、もちろんおまけしますよ! いかがです?」
いくらで売るのかという判断は、店員にほとんどまかされている。高く売れることも、客に逃げられてしまうことがあるのも、誰も気に止めていない。
「我々でも時々、値段交渉なんて面倒だと思うんですよ。でも、それがアフリカの魅力で、買い物の魅力。定価に変えようとは思いませんね」
シビアに数字を扱う時間の中でも、いかに状況を楽しむか。ユーモアに富んだセールストークを聞いていると、この国の時間の豊かさにふと気づく。
(更新日:2006年07月10日)
Passion from around the World
カサブランカから、元気になる都会での過ごし方をお伝えします。
編集協力:三菱商事
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