
焼きたてのパンやコーヒーの香り、市場のトマトやオレンジはスペインのどこのまちだって同じなのに、マドリードは特別な味がある、と住む人はいう。
「今日はとびきりきれいだね」
売る人の何気ないひと言と笑顔が、このまちの隠し味だとか。誰もが話好きで、パンを買いに行って2時間も話し込んだなんてよくあることだ。
そんな笑顔がたえないひとり、ここで生まれ育ったフォアナさんは歳をかさねて、ことし76歳になった。
旦那さんに先立たれたものの、4人の子供と8人の孫はそれぞれ独立。今は市内のマンションで愛犬ルナとともに暮らす。

朝早くから新鮮な食材を求めて市場へ行き、近所に住む長男一家のために昼食を用意する。週2回の太極拳とエアロビクス教室に通いながら、洋裁に編み物、難民援助会の活動などと、休む暇もない。夏になれば、次女の暮らす海辺のまちでのバカンスがそこに加わる。
フォアナさんの毎日は忙しいのだ。
2年前に、およそ430キロ離れたグラナダにマンションを購入し、家賃収入を生計にあてているが、そんなゆとりが、彼女の毎日をさらに活動的なものにしているようだ。

近所のコンデオルガス広場は、ルナのお気に入りの散歩コース。フォアナさんがまだ若く、内戦や戦争をへてもなおスペインが貧しかったころ、キャラメル工場で働いていた彼女は、残ってしまったキャラメルを街頭で配った、という。
今でもケーキを作ったらここに来て、公園に集まってくる人たちと分け合い、おしゃべりしながら食べるのが一番の楽しみだ、と笑う。離れて暮らす子供たちは同居を勧めているが、ひとりでやっていけるうちはこのまちを離れるつもりはないそうだ。
「マドリードより美しい町はあるけど、マドリードより好きだと思えるところは見つからないわね」

気ままに暮らす彼女にとっても、クリスマスはやはり待ち遠しい。年に一度、離れ離れになった家族全員がフォアナさんのもとにあつまる。
「皆、私のパエリアを楽しみにしているの。いつまでたっても子供は子供」
たくさんの家族に囲まれ、笑い合えることに感謝している。そう語る彼女の目は潤んできた。
よく笑い、よく泣き、よく食べ、よく眠り、そして、よくがんばる。
こんなおばあちゃんがマドリードの隠し味を演出している。
(更新日:2006年07月24日)
Passion from around the World
マドリードから、元気になる都会での過ごし方をお伝えします。
編集協力:三菱商事
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