太平洋に面したペルーの首都リマ。港町カジャオ地区の朝は早い。
マチュピチュやナスカだけがペルーではない。砂漠もあれば、アマゾンも、アンデスもある。カジャオのような観光地ともいえないありふれた港町もまた、ペルーの顔のひとつだ。ただし、この地区の名がリマっ子の中でちょっと特別な響きをもつのは、うまいセビッチェが食べられるからである。

セビッチェとは、新鮮な魚介類と刻んだ紫玉ねぎをレモン汁や香辛料と和えたマリネのこと。とうもろこしやさつまいもを添えていただく、太平洋の海の幸とアンデスの山の幸が調和したペルーらしい料理である。市場の食堂でも高級レストランでもメニューに名前が載り、昔はリマ市内の至るところに屋台もあった。ペルーの沿岸部、特にリマではこれほど愛されている料理はない。

カジャオでセビッチェ屋を営むドン・マテオさん(58)は、リマではちょっとした顔だ。店の名は彼と同じ「マテオ」。「マテオ」はセビッチェにうるさいリマっ子にも納得の味を提供する評判の店なのだ。
マテオさんの1日は、朝5時に魚市場で食材を選ぶことから始まる。
若くして生まれ故郷、アンデスの山間にあるコロニアル様式の美しい街アヤクーチョを後にした。リマで長く飲食店に勤めたのち、念願のセビッチェ屋開業にまでこぎつけた。泣き言をよしとしないラテンの男らしく、苦労話は彼の口からは聞かれないが、最初の店を開いてから26年、頑として守っているモットーがある。

「とにかく店を清潔に保つこと。そして、常に一番いい魚だけを出すことだな」
今では奥さんと4人の子供たちも店を手伝い、マテオさんは4軒の店を走り回っている。定食メニューも好評で、1店舗が1日に出す魚介類は約20キロにもなるという。
強面の彼はあまり笑わない。出されたセビッチェを一口食べて、客が「おいしい!」と言うとようやく口元がほころぶ。自信にあふれた会心の笑みである。

香辛料を多用した酸っぱすぎる、辛すぎるセビッチェを出す店が多いなか、店主が自ら選んだよい素材を使う「マテオ」は、きつい味つけでごまかす必要がない。
「刺身や寿司の好きな日本人の口にきっとセビッチェは合うと思うんだ。いつか日本にも店を出してみたいよ。まずはペルーを訪れる日本人にマテオの味を試してほしいね」
(更新日:2006年11月13日)
編集協力:三菱商事

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