レトロと最新、東洋と西洋が混ざり合う香港、そしてマカオ。ここ数年で大きな変化を遂げた両都市の魅力を2回連続でお届けする。初回は香港在住カメラマンを案内人に、街歩きしながら楽しめる変わらぬ風景、変わり行く風景をご紹介。
白い制服をぴしっと着こなし、光差し込むラウンジを忙しく行き交うウエーターたち。
時折足を止めては「Madame, more tea?(お茶はいかがですか?)」ときまじめな顔つきでカップに香り高い紅茶を注ぐ。
ザ・ペニンシュラ香港ホテルなどで楽しめるアフタヌーンティーは、英国人が伝えた習慣の一つ。清代から列強諸国の窓口として機能してきた香港。そこに暮らした人々は、初めて目にする西欧文化を彼らなりの流儀で洗練し、香港でしか出合えない数々の魅力的なカルチャーを編み出し続けた。

そんな無国籍な魅力を楽しむのには、中環(セントラル)の一角にある蘭桂坊(ランカイフォン)の夜遊びもおすすめだ。飲茶屋、カフェ、タイ料理、インド料理、ディスコにレゲエバー。世界各地の楽しいこと、おいしいものが一堂に会するナイトスポットだ。

街にいくつもあるテーラーもまた、絶妙に混じる英国と香港の伝統を感じることができる場所。
尖沙咀(チムサーチョイ)の彌敦道(ネーザンロード)に面した商業ビルの一室に、そんなテーラーの1軒「W.W.チャン&サンズ 」がある。
室内は紳士服と婦人服を扱うコーナーに分かれており、ゆったりした店構えは、今どきの香港のテーラーでは珍しい。いったん中に入れば、喧噪(けんそう)とは無縁の空間で心ゆくまで自分のための1着を追求できる。

もともと上海にあったこのテーラー、香港での開業は1960年代にさかのぼる。職人たちは今も工程のほとんどを手作業で行い、ボタンホールひとつとっても、すべて手でかがる徹底ぶりだ。一度取った個人の型紙は永久保存してくれるので、出張や旅行のたびに立ち寄るリピーターも少なくない。国際都市香港や上海で店を構えてきただけに、欧米人のみならずアジア人の体形を生かすスタイルを熟知しているのも、同店の強みだ。
客層は観光客やビジネスマン、地元の人々と多岐にわたる。男性がオーダーするのはスーツが中心だが、女性はカジュアル服やイブニングドレス、チャイナドレスと幅が広い。以前はおしゃれを知るミドルエージ以上が顧客の中心だったが、最近は若者もオーダーメードを楽しむようになってきた。
「既製の服では得られないフィット感や、サイズの合った服の見栄えのよさなどを、人々が追求するようになったからでしょうか」。店をあずかるパトリックさんが説明してくれた。
ピッタリとサイズのあった服装は着る人を美しく見せる。体形の気になる部分をカバーするデザインを相談できるのも、オーダーメードの良さだろう。「初めてのお客様には徹底的に相談にのります」とパトリックさんは語る。

実際にオーダーするにあたり簡単なのは、雑誌の切り抜きやカタログなど、イメージの見本を持って行くこと。お店ではそれを参考にしながら、本人の体形を考慮し、流行を加味しながら細かい打ち合わせを行い、布選びに入る。布のストックはイタリア、イギリスの高級服地を中心に多岐にわたり、希望があれば取り寄せも引き受ける。訪問当日も、ビジネスマン風の男性たちが仮縫いのために次々と店を訪れていた。
ふと、店内のマネキンが着用する仕上がったばかりの婦人服に目が留まった。欧米のファッション誌からヒントを得たというその服は、袖、裾(すそ)、襟など細部にいたるまですきまのない仕上がりで、改めて職人技のすばらしさを垣間見る思いだった。
古い伝統はともすれば取り残され消えていく香港の街。だが、この技がある限り香港のテーラーが消えていくことはないだろう。


ホームページ(英語)http://www.wwchan.com
住所:
A2, 2/F, Burlington House, 94 Nathan Road, Tsimshatsui
電話:852-2366-9738
営業時間:月〜土曜 9:00-18:00
休日:日曜、祝日、旧正月から半月の間
料金:男性スーツは1万香港ドルから(布代込み)、女性用はデザインによるが大体1万香港ドル程度、チャイナドレス5千香港ドル程度。通常は仮縫いまで所要1週間、急ぐ場合は所要4日、日本から予約すれば所要3日。完成後は実費で日本まで郵送。
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