
江戸時代とほとんど変わっていない2階の客間。天井の低さも歴史の古さを物語る。ふすまで3室に仕切られている。もちろん、現在も宿泊可能だが、冷暖房はない。

江戸時代は「伊右ェ門 鯉屋」と名乗っていた大橋屋の創業は慶安2(1649)年。現在の当主は19代目にあたる。東海道線の開通によって、明治以降、ほかの旅籠が次々に廃業していくなかで、唯一残ったのがこの大橋屋だった。間口9間、奥行23間という、赤坂宿のなかでも大きな旅籠で、2階建ての建物は正徳6(1716)年ごろの建築。現在でも当時の建物が残り、かつ旅館として営業を続けているのは、東海道53の宿場のなかでもおそらくここだけだけではないか。
実際に泊めていただくことにする。軒先の「御宿所」と書かれた提灯の淡い灯(あか)りがなんともいえない情緒を醸し出している連子格子(れんじこうし)の戸を開けて、一歩なかに足を踏み入れると、そこはもう江戸時代の旅籠そのままといっていい。
広い土間と板敷きの上がりかまち。見上げれば太い梁。中庭には広重の絵にあるような石灯籠(南北朝時代のもの)がいまも残る。黒光りする急階段を上がると、街道に面してふすまで仕切られた客室が3部屋。行灯(あんどん)や火鉢などが置かれたこの部屋には、かの松尾芭蕉も宿泊したそうで、その当時とほとんど変わらないであろう姿をいまだ留めている。
もちろん、いまでは飯盛女を呼ぶことはできないが、風呂から上がって名物の自然薯(じねんじょ)を使ったごちそうをいただいたあと、ときおり階下の東海道を走る自動車の音が聞えるほかは物音ひとつしない部屋に身を横たえると、ここを通った芭蕉がおそらくしたように、自分も一句詠んでみようかという気持ちになる。
正直いって、赤坂宿にはかつての賑わいを偲(しの)ばせる場所や物は少ない。観光スポットもそう多くない。けれども、御油から松並木を歩いて赤坂宿に入り、大橋屋に一夜の宿をとれば、どんな史跡を見るよりも当時の旅人になった気分を味わえるのは確実だ。それだけでも赤坂宿を訪れる価値はある――そういっても過言ではない。


600円(税込)
ご飯にみそと採れたての新鮮なネギや油揚げを入れて蒸したもので、栄養価の高い温かな料理を手軽に作れることから、近辺で古くより食べられてきた郷土料理のひとつ。地元の農家の主婦が中心となって、安心・安全な農産物を使った郷土食を食べさせてくれる「愛輪(あいりん)」では、地場の大豆と米から作る手作りみそを使い、旬の食材を使った小鉢5品とみそ汁をセットで提供している。古民家を使った店内も往時の雰囲気を楽しめるが、弁当の販売もしているので(要事前連絡)街道歩きのお供にもおすすめ。
(写真提供:愛輪)
住所:愛知県宝飯郡音羽町赤坂字関川96
電話:0533-87-7166
営業時間:10:00〜16:00(土日のみ営業。弁当は金曜日も営業)

文:藤田 健児
写真:熊切 大輔
(更新日:2006年10月26日)
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