種豚となる桑原さんの豚の特徴は「長生き」です。中には一般の豚の2倍ほどの豚も多いそうです。
「仮説ですが、血統的に長生きの豚は、細胞の新陳代謝が活発で、老化が遅れるようです。中には人間でいえば100歳ほどで、子供を生む豚もいます」(桑原さん)

欧米では、豚と牛の価格差は小さく、部位によっては逆転することもあります。
それに比べると、日本の牛肉信仰はすさまじいです。たしかに、和牛は飼育に手間も時間もかかります。和牛と同じというわけにはいかないでしょうが、手間ひまかけて健康に育てた豚をもう少し評価をしてあげてもよいと思います。最高級和牛は、100グラム1万円はします。豚肉は最高級でも100グラムで400円、その価格差は実に25倍!
「近年、優良品種の種豚の相場が低迷しているので、優良品種のブリーダーがどんどん減っています。このままでは、将来は種の保存に支障をきたしかねません」(桑原さん)


桑原さんの農場には、液体窒素の精液永久保存施設があります。民間でこんな施設を持っているところは、ほかにはないと思います。世界中の優良な豚の精子が、何千頭分も保管されています。
「液体窒素代だけでも年間450万円もかかるけど、自分がやらないと血が途絶えてしまうかもしれないから」(桑原さん)
未来、ジュラシックパークのように、ほんの少しのDNAで種を再現できる時代が来るかもしれませんが、今はまだまだ夢物語です。桑原さんはこの液体窒素の保存施設を「夢のつぼ」と呼び、大切に守っています。


桑原さんの豚を放牧する、松沢文人さんの放牧場は、朝霧高原周辺に何カ所もあり、交代で使われます。
桑原さんの種豚の血を受け継いだ、さまざまな品種の豚は、30キロくらいに育つと、1頭あたり約20坪(66平方メートル)の土地に放牧されます。ここで約3カ月、ストレスフリーの環境で、豚たちはのびのびと成長するために放牧されます。
与える飼料も、非遺伝子組み変え、ポストハーベストフリー、抗生物質無添加など、徹底的にこだわっています。これ以上の安全・安心を求めるのは難しいと思います。
一般の養豚場の飼育面積は1頭あたり0.8平方メートル。放牧豚はその80倍以上です。草が生い茂る原野に30キロの豚が放され、出荷時の110キロ程度にまで育つころには原野は掘り返され、次の放牧までしばらく自然に戻します。自然の回復力の範囲内で放牧するため、循環型の飼育環境が維持されます。
放牧された豚は、自分の世界を持てるので、ほかの豚にはお構いなしです。ケンカもしないし、親分子分の関係もできないそうです。
放牧は真冬も行われますが、血統的に丈夫な豚は、厳しい自然環境でも何ともないそうです。富士山をバックに、雪の中を走り回る豚。ちょっと想像できません。
出荷される豚は生後200日前後。平均的な豚が175日ですから、1カ月ほど長く飼育されます。もちろん、もっと長く放牧した方が、うまい豚になるのはわかっているのですが、値段が高くなるうえに、筋が強くなり、一般の肉屋では解体しにくいので、今は3カ月にしているそうです。
スペインのイベリコ豚のように6カ月間ほど放牧したら、どんな味になるのでしょうか? 是非、もっと長い放牧をして欲しいと思うのは、私だけではないと思います。
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