大橋さんの案内で、西別川をさかのぼりました。大橋さんは西別鮭の水揚げ後の品質改善や、漁法の改良など、さまざまな活動を通じて、西別鮭のブランド化に尽力してきた、鮭のプロ中のプロです。また、鮭の資源保護と回復のために、地道な努力を続けてきました。
特に、1990年、釧路への引水を目的に、西別川上流部からの取水計画が明るみに出たとき、多くの建設賛成派に立ち向かい、丸5年もの年月を計画阻止のために尽力した中心人物も大橋さんです。
西別川は全長77キロ。その昔は、広大な湿原を自由自在に蛇行しながら、大地の恵みをさまざまな恵みを集めた豊かな川です。その源流は摩周湖の伏流水の湧(わ)き水です。
現在、その地には水産総合研究センター、さけますセンター虹別事業所があり、西別鮭の人工ふ化、飼育及び放流事業を推進しています。大橋さんも、若い頃はこの事業所と一緒に、さまざまな西別鮭の資源回復事業に取り組んだそうです。

虹別の数カ所から溢(あふ)れる水はひとつになり、西別川の源流となります。
砂を吹き上げながら、盛んに湧き出る清水はまさに透明です。泉の周囲はクレソンが自生し、水面にはバイカモの花が広がります。この水を飲み育つ西別鮭、理屈抜きに美味になる気がします。

虹別事業所では、西別鮭をはじめとする、西別川の水産資源のために、さまざまな活動がされています。最新技術では、稚魚の成育水温を人工的に変化させ、1日1本増える鮭の耳石(平こう感覚を保ったり音を認識する器官)の年輪に、特徴ある波形を刻むことで、西別川の鮭であることを、世界中どこで捕獲されても識別できるそうです。大木の年輪を分析することで、過去の気候を分析できるのと似た原理です。
「西別鮭を増やすには、多くの稚魚を放流すること。それに限ります」(石村豊所長)
西別鮭がなぜおいしいのか?一説によると、西別川の川底で見つけられる沼鉄鉱の存在であるとか、エサに甲殻類を多食するとか、いろいろな説があります。しかしながら、科学的な成分分析では、ほかの河川との違いは特定できず、いまだに謎です。


昔は湿地帯や森林だった西別川の流域も、酪農中心の農地開発が進み、水質の悪化が心配されます。そうした危機感を持った別海漁協などが中心となり、川の清掃や植林なども行われています。また、「西別川流域環境保全事業」として、北海道の予算もつくようになりました。長年の土建業のための開発から、地域の自然や伝統産業を生かした発展へのかじ取り。少しずつですが、河川を守る取り組みが進んでいるようです。

我々消費者はそうした活動をしっかりと支えるため、本物の伝統食材に価値を認めるべき時代になったのではないでしょうか。
明治以降、献上鮭の名誉も影が薄くなり、乱獲のためか、水揚げが激減した時期も続いたようです。厳格な製法管理をしていた徳川将軍家への献上鮭とは異なり、粗悪品が出回ったこともあり、一時期、西別鮭の評価が下がったことは事実です。
食生活の変化と輸入品の増大により、鮭全般の魚価が暴落し、西別鮭も危機に直面しました。しかし、最近では原点に戻り、こだわりの西別鮭を生産する活動は活発になりつつあります。もちろん、資源の回復も少しずつ進んでいます。
安いだけの輸入魚、脂ギトギトの養殖サーモン。一度はそうした鮭に押しやられた感がある日本の鮭。サーモンではなく、鮭。その違いは大きいです。 日本人の食卓にはやはり、日本人が愛し続けてきた日本の伝統的鮭が一番です。
写真:八木澤 芳彦
(更新日:2006年10月30日)
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