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ぬちぐすいを訪ねて

古代人の命をつないだ幻の塩 1500年の眠りから目覚め、今、世界へ 広島県・上蒲刈島

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一片の土器から始まった古代遺跡の発掘と
手探りで追求し続けた製塩法の解明

現在「県民の浜」として多くの人に親しまれているこの浜で約1500年前の製塩土器の破片が見つかったことが、製塩遺構の発掘につながった

「海人の藻塩」が作られている上蒲刈島は、広島県の呉市からバスで1時間20分ほど。安芸灘(あきなだ)大橋と蒲刈大橋のふたつの橋で結ばれているので、車で簡単に行くことができる。塩づくりが行われているのは、島の東南部に位置する「県民の浜」。ここは日本の渚百選にも選ばれていて、海の美しさはもとより、白い砂浜と松の織りなす景観が印象的だ。瀬戸内海の島々を望む穏やかなビーチに立てば、その足元に古代遺跡が眠っているなどとは思いもよらないだろう。

「県民の浜」のレストラン「あび」で、瀬戸内の海の幸の天ぷらと刺身を「海人の藻塩」のつけ塩でいただく。ワサビと塩を混ぜ合わせると辛みと甘みがほどよく絡み合い、新鮮な刺身の旨さを一段と引き出してくれる

82年にこの浜で古墳時代の製塩土器の破片を見つけ、遺跡発掘へのきっかけを作ったのが松浦宣秀さんだ。彼はこの島に先祖代々続く来生寺(らいしょうじ)の住職にして、県の文化財協会理事や県立歴史博物館友の会理事なども務める考古学の研究者である。翌83年に浜の造成工事が開始されたときに松浦さんが古代遺跡を発見し、はるか昔に行われていた塩づくりの研究が始まった。

「沖浦遺跡」と名づけられたこの遺跡からは多くの土器や炉の跡が出土したが、製塩法の解明には、さらに12年もの年月を要したという。塩づくりに関する古文書がなく、まったくの手探り状態で松浦さんはこつこつと調査を続けてきた。

万葉集で「玉藻」と詠われたのが、丸い玉(胞子)のついたホンダワラ。乾燥させた海藻には天然の旨みが凝縮され、そのエキスと栄養素が藻塩の味を決めている

試行錯誤の中で、万葉集に「藻塩」「玉藻」の言葉が詠まれていることに着目し、玉藻が丸い胞子を持つ海藻のホンダワラであることを突き止めた。そして地元の有志で作った「藻塩の会」のメンバーとともにさまざまな実験を繰り返し、ついに古代の塩づくりの再現に成功したという。

その方法は、瓶にくんだ海水に乾燥したホンダワラを浸して水分を吸収させ、その後、ホンダワラを取り出して乾かし、再び瓶の海水に浸す……という工程を繰り返すもの。

炭火にかけた土器で煮詰められ、できあがった藻塩。これを撹拌するとサラサラの塩になる。発掘された土器の底は熱効率をよくするために凹んでいて、体験学習用に用意された土器も、それが忠実に再現されている

やがて海水の塩分濃度は高められ、ホンダワラの栄養素が溶け出した茶色くて塩辛い液体になる。濃くなった海水にホンダワラを浸けて干すと、藻に塩がたくさん付着するので、それを焼いて塩の固まりを作り、灰ごと濃度の高い海水に戻す。そしてひと晩寝かせた上澄み液を土器で煮詰めてできたのが藻塩というわけだ。

松浦さんたちが苦労の末たどり着いたこの製塩法は、考古学会からも認められた歴史的な大発見である。これをきっかけに、先人たちの知恵と技、何よりこの味を伝承するために会社が設立され、今では衛生的な施設で、古式にのっとった製法により『海人の藻塩』が作られるようになったのだ。

遺跡の発掘と、海人の藻塩の誕生の立て役者・松浦宣秀さん

一片の土器の発見と、製塩法の解明にかける松浦さんをはじめ島の人々の熱い思いが生み出した「海人の藻塩」。現代によみがえった藻塩の再現は、美しい瀬戸内の海で、はるか古代からつながる一筋の線にも思える。それは塩だけでなく、海を含めた自然、そして、命そのもののつながりを示す線でもあるのだ。

(文・写真:林秀美)

旅の連絡先

海人の藻塩・製造元
蒲刈物産
広島県呉市蒲刈町大浦7407-1
TEL 0823-70-7021
http://www.moshio.co.jp/
県民の浜
輝きの館・シーフードレストラン「あび」
TEL 0823-66-1177
年中無休
営業/11時〜14時
http://kin-shuzo.co.jp/choraku.html

(更新日:2007年12月05日)

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