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ぬちぐすいを訪ねて

藤沢周平のふるさと、山形県庄内地方 海、山、平野の冬の恵みを食す 〜山形・鶴岡市〜

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「命の薬」と書いて「ぬちぐすい」。体によい食材や料理を表す沖縄の方言である。この言葉の意味はそれだけに留まらず、心に和む風景や、魂が表われるような情景をも指す、意味深い言葉だ。

そんな「ぬちぐすい」を探して歩く第三弾。今回ご紹介するのは、東北・山形の庄内地方の冬の郷土料理。東北一の米どころともうたわれ、西は日本海に面し、鳥海山や出羽三山などの山々に囲まれた庄内平野。今回は鶴岡の農家民宿を訪ね、旬の食材や保存食を使った庄内の冬の「ぬちぐすい」を訪ねた。

山形県庄内地方

甘辛いでんがく味噌をたっぷりと塗った、鰰(はたはた)のでんがく。日本海の捕れ立ての鰰は白身が肉厚でポロポロとやわらかい。絶品がぶりこ。卵と卵をつなぐ部分に独特の粘りがある

「12月9日は大黒さまのお歳夜、年越しですからのぉー。この地方ではこの時期、はたはたのでんがくを食べるんですの」。田んぼに囲まれた鶴岡の町外れで農家の宿「母家(おもや)」を営む小野寺美佐子さんは、開口一番、やわらかな庄内方言の語尾でこういった。「ぬちぐすい」を頂く前に、「みみぐすい(耳の薬)」が体を包んだ。

(左)鶴岡駅からバスで北西へ40分、羽黒山の表参道の鳥居前に着く。樹齢350〜500年の杉並木を歩き始めると、ほどなくして、国宝・五重塔がその姿を表す。創建は平安時代、平将門によるものと伝えられている(右)藤沢周平は「私の記憶の中にある羽黒山も、水墨画の世界の中に沈んでいる」と記している

鰰(はたはた)のでんがく──東京からの車中で読んでいた、藤沢周平の「三屋清左衛門残日録」を思い出した。用人の職を退き、国元で隠居する三屋清左衛門。「海坂藩」の名は出てこないが、それは明らかに鶴岡を舞台にしている。この小説には、城下の小料理屋が登場する。「みさ」という女将が営むこの店で、清左衛門がかつての同輩などと四季折々の庄内の肴で酒を酌み交わすシーンが描かれている。「はたはたは、田楽にして焼いて焼いて喰べるのもうまい(中略)町奉行は勢いよく、ぶりこと呼ばれるはたはたの卵を噛む音を立てた。浜でははたはたがとれるようになると、季節は冬に入る」。ぶりこの食感に興味をひいた一節だった。

天井が高く、白壁とつやがよく出た黒光りする柱。鴨居には、ちょうちんを収納する家紋入りの箱が。年月を感じるこの居間で、小野寺夫妻と酒を酌み交わし、夜が更ける

「12月も中旬になると、はたはたは仕舞いになるんです。いまでこそ高級魚になりましたがの、はたはたといえば昔は庶民の魚。大黒さまはつつましい方なので、こんな魚が好きだったんでしょうかのぉー。大黒さまのお歳夜には、まっか大根もお供えします。これが大黒さまのお嫁さん。赤い大根とは違います。二股に別れた大根ですの」

農家の宿「母家」は築百年以上の古民家だ。かつては地主だったという農家のこの家に美佐子さんは生まれ、4代目を継いだ。「グリーンツーリズム」という言葉と出会い、6年前、農家民宿をはじめた。

秋の収穫時期からはじまるのが、干し柿の生産。軒下で天日干しされ、納屋の中で乾燥させ、何行程も経て、庄内の干し柿は出荷されていく

「グリーンツーリズムというのは体験する旅でなくてはいけないように考える方もいますけど、私はここで思い思いに過ごしていただいて、土地のものを食べていただければと思いましての」

宿の居間からは一面に広がる田んぼが見え、その先には金峰山が見える。子どもの頃、金峰山の麓の祖母の家に預けられたという美佐子さん。

「山のほうがある意味、平野より食が豊かなのかもしれませんのぉー。そこで食べさせてもらった祖母の料理や、聞かせてもらった昔話が私の財産になっています」。

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