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週刊昭和第17号は2009年3月24日発売。定価580円(税込み)

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1950年代に前衛歌人として注目を集めた寺山修司は、60年代に入り演劇活動を展開、昭和42年(1967)に演劇実験室「天井桟敷」を結成する。その作品や思想は、劇作家や演出家の枠を超えて、若者たちの強い支持を受ける。

寺山修司と1960年代

文:三浦雅士(文芸評論家)

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故郷を歩く
取材旅行で青森の市街を歩く寺山修司。青森県弘前市で生まれた寺山は、青森、三沢などで育ち、高校在学中から詩作・句作に早熟な才能を示した。昭和42年6月撮影

時代は記憶のなかにしか存在しない。そして記憶はといえば、これほどあやふやなものはない。にもかかわらず人は、その時代がたしかに存在したと断言する。多くの人々の記憶、他人の記憶を証拠に。

文書も映像も他人の記憶にほかならない。ほんとうはそれらにしたところで、あやふやさを免れているわけではない。文書はむろんのこと、録画も録音も編集されたものなのだ。それら編集されたものを、さらに編集しなおして、人々は歴史を作る。歴史とは編集のことだ。記憶もまた編集のことだ。

寺山修司の長編映画「田園に死す」(昭和49年)の主題は記憶、つまり歴史だ。語られていた過去の物語が、なかばで反転し、編集しなおされる。美しく語られていた過去が、より真実らしく、つまり卑俗に語りなおされてゆく。だが、それさえも真実であるという保証はない。真実など存在しない。寺山修司が「田園に死す」で語っているのは、反転し続ける1960年代の記憶だったのだと言ってもいい。そこでは、高度経済成長のなかで見る見るうちに失われていく田園の、つまり田舎の風景の意味が、個人的な記憶への垂直な問いかけのかたちをとって問われている。

“家”への相反する感情を示す

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青森港の鉄道引き込み線を歩く寺山修司
昭和42年6月撮影

60年代前半をもっともよく象徴するのは毎年春に農村から都市へと中卒労働者を運ぶ就職列車だった。彼らは「金の卵」と呼ばれていた。だが、ほかならぬ彼ら低廉労働者の存在によって日本経済は奇跡の発展を遂げ、10年もしないうちに中卒はむろんのこと、高卒さえも珍しくなろうとしていたのである。「金の卵」はまたたくまに費消されてしまったのだ。──寺山修司は自身のなかに「金の卵」を見る知性を持っていたのである。

寺山修司が大学祭などで「家出のすすめ」を講演してまわり、三一書房から『現代の青春論』を刊行したのは昭和38年(1963)だった。そしてそのわずか4年後には演劇実験室「天井桟敷」を立ち上げる。第1回公演は「青森県のせむし男」。家から、つまり田舎から逃げ出すこと、家へ、つまり田舎へと回帰することとの二つが、同時に主題になっていたのだ。この相反する感情をもっとも鮮明なかたちで示したことによって、寺山修司は60年代のスターになったのだと言っていい。一方ではサルトルやカミュの実存主義が都市の景観、たとえばジャズ喫茶とともに語られ、他方では柳田國男の民俗学が田舎の風俗、たとえば恐山のイタコとともに語られる。

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50年代までは戦前の風景が続いていたのである。日本が地響きを立てて変わったのは60年代だった。昭和39年(1964)が東京オリンピックと新幹線開業の年だ。寺山修司がかくも懐かしいのは、失われつつあるものへの激しい愛憎を、自分自身への問いかけとして語ることができたからだろう。失われつつあったものの最大のものが、家であり家族であり家庭であり、その中心に佇む母のイメージであった。──変化はいまに続いている。

寺山修司
昭和10年(1935)〜昭和58年(1983)。青森県生まれ。歌人、劇作家。早稲田大学在学中の昭和29年に『チェホフ祭』50首で「短歌研究」新人賞受賞。以後、詩、戯曲、批評など幅広いジャンルで活躍した。昭和42年、演劇実験室「天井桟敷」を結成。評論『書を捨てよ、町へ出よう』、映画「田園に死す」、演劇「奴婢訓」など。

三浦 雅士(みうら・まさし)

昭和21年(1946)生まれ。「ユリイカ」「現代思想」編集長を経て、批評活動に入る。『青春の終焉』で伊藤整文学賞受賞。著書に『メランコリーの水脈』『出生の秘密』など。

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