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1962年3月26日朝日新聞夕刊紙面より
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牙から尾まで約6メートルのナウマンゾウの復元像と歯の化石(左奥)=長野県信濃町の野尻湖ナウマンゾウ博物館、山根写す

「湯たんぽかな?」

長野県北部の信濃町で旅館を営む故加藤松之助さんは1948(昭和23)年10月早朝、旅館近くの野尻湖畔を散歩していて、半分ほど砂に埋もれた不思議な物体を見つけた。家に戻り、スコップを持ってきて掘り出してみた。

ずっしり重く、ブリキの湯たんぽのようにギザギザの溝が並んでいる。京都大学の教授が鑑定してみると、ナウマンゾウの上あごの第三大臼歯(長さ約30センチ、重さ約5キロ)とわかった。野尻湖のナウマンゾウ化石第1号だ。

これを機に、野尻湖底発掘への関心が強まる。どの年代の地層かをめぐって、しばらく「空論」が交わされていたが、古生物学者の故井尻正二さんが「理屈ばかり言っていないで、まず掘ってみては」と提案。62年3月26日、発電所の取水で水位が下がり湖岸が後退するのを待って、1次発掘が始まった。

ナウマンゾウの化石は国内約230カ所で発見されている。だが野尻湖の特徴は、人類との関わりが分かる点だという。5.4万〜3.8万年前の地層から、30頭以上の化石とともに旧石器時代の石器や国内最古の骨器が出土。野尻湖ナウマンゾウ博物館の近藤洋一学芸員は「『野尻湖人』がナウマンゾウやヤベオオツノジカを狩猟・解体して生活していた可能性を示す重要な遺跡だ」と言う。

81年には、動物の皮を剥いだりするのに使う骨製スクレイパー(削器)が、約4.6万年前の地層から出た。掘り当てた日本大学松戸歯学部教授の鈴木久仁博さんは当時、高校の生物の教員。縁辺に細かく打ち欠いたような跡があり、「ただの骨片にしては形がきれいだと思った」。発掘現場にスピーカーで「世界最古の骨器の可能性があります」と報告が流れ、参加者たちは沸き立った。

あのとき

参加者延べ2万人、遺物8万点

1962年に始まった野尻湖の発掘は2010年で18次を重ねる。狩猟した動物を解体した「キル・サイト」があったと考えられる。1973年には、ナウマンゾウの牙とヤベオオツノジカの角が寄り添うように並んだ化石が発見された。「月と星」に見たてた祭祀(さいし)の場だった可能性もある。

全国から集まった発掘参加者は、湖畔周辺の陸上発掘も含めると、延べ2万4540人、化石・遺物は8万2920点と比類のないスケールだ。最盛期の75〜87年ごろは数千人が参加。スコップや竹ベラを握った人たちで潮干狩りのようだった。75年には全国で「野尻湖友の会」が結成され、今も23の会がある。発掘調査団が発行する野尻湖新聞は、18次で通算249号となった。

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