
2日目の宿は、蓮華定院(れんげじょういん)。門に掲げられたちょうちんには六文銭の家紋が浮かび上がっている。真田家の菩提寺(ぼだいじ)であることから、ふすまの取っ手や、法具など、様々なところに六文銭があしらわれている。
さっそく、添田隆昭住職(60)から瞑想(めいそう)の仕方を教わる。コツは「頭から背骨、お尻に一本の竹の筒が貫いている感覚で」。足を組み、線香1本が燃える約40分の間、目を閉じる。ゆっくり息を吸い、吐く。呼吸を整えるだけで精いっぱい。乱れては直し、再び「一本の竹の筒」を思い浮かべる。気づくと、線香は燃え尽きていた。
添田住職は「瞑想によって、宇宙と一体となり、自分が宇宙の一部であることに気付くことができるのです」と教えてくれた。
部屋は2階にある22畳の和室。こたつは入る前から暖められていて、テレビもある。トイレは1階。外国人の宿泊者が多い蓮華定院では、庭を一望できる2階が人気になっている。日本人はトイレの近くということで1階の部屋を指定することが多いという。

夕食のため通されたのは、関ケ原の合戦で豊臣方についた真田幸村がちっきょしていたという間。一段高い場所が幸村の席で、おぜんは、そばに控える住職が座っていた場所に置かれていた。野菜を模した生ふ、濃厚なごま豆腐など、10品以上が並ぶ。ふすま絵は安土桃山時代の作という。部屋には一人しかいないはずなのに、なぜか上座を見るのがはばかられる。不思議な緊張感が漂う中でも、はしは進んだ。
部屋に戻ると布団が敷かれていた。紫の毛布には白地で般若心経の文字が並ぶ。寺の特注品で、市販はされていない。
毛布にくるまりながら、奥の院で見た豊臣家墓所の豪華さを思い出す。そういえば、明智光秀の供養塔も地図に載っていた。自分の領地がいつ奪われるかわからなかった戦国時代。心おきなく戦地に赴けるよう、墓地だけは高野山に確保しておこうという武将やその家族が多かったようだ。結果、信長、秀吉、光秀、信玄、謙信、そして幸村が、同じ山中で眠ることに。瞑想の後に添田住職が言った「人間も宇宙の一部」という言葉の意味が、少しわかったような気がした。
次の日、朝の勤行の後に他の部屋を案内してもらう。ほとんどが庭に面しており、四季折々の花を楽しめるようになっている。基本的に隣室とはふすまで仕切られているだけだ。ただ、最近は個室を希望する人も多く、壁に囲まれた部屋も用意しているという。部屋数は48で、茶室もある。山内では中くらいの規模だという。


朝食を済ませ、写経を体験した。窓から見える庭の緑が目に心地よい。お手本のお経が書かれた紙の上を筆でなぞるだけなので、初心者でも1時間ほどで書くことができる。半分以上は言葉の意味や読み方もわからないが、どんどん没頭していく。下手ながらも、最後まで緊張感は途切れることなく、書き上げることができた。
日の出と共に起き、日没と共に眠る。僧侶の住まいである寺院で過ごし、多少豪華ではあったが僧侶と同じ精進料理を食した。庭の草花、山の木々から季節の移ろいを知る。忘れかけた「当たり前」を気付かせてくれる旅だった。
帰りのケーブルカー、車内には若い尼僧が一人座っていた。発車時刻が近づく。笑いながら乗り込んできたのは、女子高校生2人組。たちまち車内は彼女たちの声に満たされる。極楽橋駅から南海電鉄に乗り換えるとき、尼僧の姿は見えなくなっていた。

初日は、東京駅から新幹線「のぞみ」に乗って2時間半で新大阪駅に。JR東海道線で大阪駅へ行き、大阪環状線に乗り換える。新今宮駅で今度は南海電鉄高野線に、終点の極楽橋駅までは1時間半。高野山駅までは、さらにケーブルカーで5分。
2日目、山内を散策。西端の大門から東端の奥の院までは徒歩で約1時間。タクシーや路線バスも運行している。
3日目、行きのコースをさかのぼって、帰京。
東京都区内から高野山駅まで片道運賃9,740円、新幹線指定席5,740円。
宿坊の宿泊料は寺院や部屋の種類、料理によって異なるが、1泊2食1万円程度。普門院の洋室は1泊2食1万9千円から。蓮華定院は1泊2食9,500円から。

全国の宿坊については、個人が運営する宿坊研究会のサイトが詳しく紹介している。http://syukubo.com/

(更新日:2008年01月23日)
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