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釜から柄杓(ひしゃく)で湯を汲(く)み、茶わんに湯を注ぐと、甘く濃い抹茶の香りが立ちのぼった。
「ああ、寒くなったな」と気温の変化を感じる瞬間だ。寒くなればなるほど、香りは立ちやすい。
「冬ってお茶の香りがふわってくるのがいいよね」
茶道の稽古(けいこ)仲間のひとりが休憩時間にそういった。
やっぱり。あれは茶を点(た)てる者だけが味わえる、ひそかな楽しみのひとつなのだ。
抹茶アイスや抹茶ケーキ、抹茶ミルクなど、日本人にとって抹茶の味は親しみ深いもの。だが、その抹茶を本来の姿で楽しむ「茶道」となると、とたんに堅苦しいイメージに変わってしまう。
確かにカジュアルだとはいい難いが、茶室の持つ独特の緊張感は同時に魅力でもあると思う。
炭がパチパチとはぜる音、シュンシュンと釜の湯が沸く音、湯を入れた茶わんが手の中で徐々に温まっていく感触、青々としたお茶の香りや季節のモチーフをかたどったお菓子……外の情報が遮断されているぶん、茶室の中では五感が研ぎ澄まされていく。
そこで味わう背筋がぴしりと伸びるような感覚、お茶を口に含んだときのリラックス感……そんな非日常の感覚を求めて、下手の横好きとわかっていながら、稽古に通い初めて3年になる。
粉にした茶をかき混ぜて飲む抹茶法は、鎌倉時代の禅僧、栄西禅師が中国は宋の国での修行から帰国した際に、仏法とともに日本に伝えたとされる。中国ではその後、湯でお茶を煮出す煎茶(せんちゃ)法が主流となり、抹茶法は廃れていったが、日本では「茶道」として独自の文化を形成し今に至る。
抹茶は玉露と同様、茶摘みの約20日前から日光を遮断し、甘みやうまみを凝縮させた葉を使用する。葉を摘んだあと、蒸した茶を乾燥させ、茎や葉脈を取り除いたものが碾茶(てんちゃ)。それをさらに石臼で挽(ひ)いたものが抹茶となる。
煎茶と違い、茶葉ごと飲んでしまう抹茶はカフェインやカテキン、テアニン、ビタミンCなどの栄養素をそのまま摂取できる。栄西の記した『喫茶養生記』には「茶は末代養生の仙薬なり、人倫延齢の妙術なり」と記されていることからも、当時は薬としての役目を担っていたことがわかる。
余談だが、茶道の先生にはお年のわりにかくしゃくとお元気にされている方が非常に多い。これも抹茶の効能かとひそかに思っている。





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