「そらっ!」力をあわせて投げたボールはみごとにかごに入り、歓声があがる。横から大柄な院生が、「どうだ」といわんばかりに特大のボールを入れてかごをふさぎ、笑い声が巻き起こる。
10人あまりが参加するボール遊びの中心で、ひときわ大きな笑顔を浮かべているのが、小椋和平さん(52)。

小椋和平さん
1954年生まれの52歳、2児の父。1979年三菱商事入社、電力関係の業務に携わる。入社5年でバグダッドに赴任、4年過ごしたのち関西に異動。1995年、台灣三菱商事会社に赴任、現在は董事長兼総經理(社長)として活動中、台湾日本人会常務理事でもある。
台湾三菱商事に赴任して12年、2005年には社長に就任した。
台北市街から車で30分、豊かな緑に包まれた「台北市立陽明教養院」は主に15歳以上の中度以上の知的障害者を対象に、身体機能訓練や職業訓練を行う公共施設。414人の院生に対し職員は279人。
以前から企業としての寄付活動を行っていた小椋さんだが、一昨年、市の社会局から紹介された同院に寄付を行い、一度院生たちと時間をともにしてからは、流れる時間が一気に濃密になった。
「ここはリラックスできる、肩の力が抜けるところ。社員たちにも、一度来て触れ合わないと、と言うんです。心が通じたあの瞬間のうれしさは、体験しないとわからない」

相手と目線をあわせた関係を築きたい、と小椋さんは多忙な仕事の合間を縫って同院を訪れる。昨年は、日本から和太鼓のグループを招いたり、チャリティコンサートを開催したり。交流はやがて社内でも広がりを見せ、ボランティアサークルの活動も活発になっているという。
職員のがんばりも、小椋さんを動かした理由のひとつ。平均年齢28歳という院生は、女性の職員にはケアをするのも重労働だが、年に一度は寝たきりの院生も含め全員で旅行に出たり、誕生日会などのイベントを積極的に開催したり。
「ふだんは明るい彼らが院生のことを涙ぐみながら語るのを聞いていると、院生の時間を幸せにする手伝いをしたいと思いますね。その中に社員を入れることで社員の視野が広がり、相手の立場でものを考える人になるのではないかという期待もあります」
社長としての顔も見せつつ、この時間を誰よりも楽しんでいるのは小椋さん本人なのは、院生や職員に混じったときの打ち解けた笑顔が物語っている。

「人をご案内したときに、来てよかった、と言ってもらえると本当にうれしいです。台湾に来る人はリピーターが多いんですよ。一度地元の人と触れ合う機会を持った人は、必ずまた吸い込まれるように来てしまう」
自らを「心の半分は台湾の人間」と言う小椋さんもまた、吸い込まれた一人のようだ。

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