1991年にアパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されてから15年が経過したいまも、南アフリカが抱える問題は多く、かつ深い。「タウンシップ」には住居すら持てない貧困層も多く暮らし、1日の食事が学校で提供される給食1回きりという子供も珍しくないのがこの国の現実だ。

多くがブリッツのタウンシップに暮らすモレワネの生徒たちも例外ではない。彼らのために校内には小さな菜園が作られ、給食用の野菜を育てる試みが始められている。見学ついでに子どもに混じって菜園に座り込んだ糸井さんが、畑の手入れを教えながら小石を拾い始めた。
最初はきょとんとしていた子どもたちも、一言一言ゆっくりと、目をのぞきこむように語りかける糸井さんの姿に耳を傾け手伝いはじめ、時には声を上げて笑っている。「なんでも不足しているので、なんでもあげてしまいそうになるんです。でも、だからこそよく考えて、本当に役に立つものを差し上げたい。パソコンの寄付にあたっては、健康面でのケアが先では、とも考えましたが、パソコンがあれば彼らの世界を広げてあげられるとも思うんです。当面の課題は、使い方をどう教えていくかですね」。
国内に5百万人以上の感染者、患者がいるといわれるHIV(エイズ)に関する教育や地元の学生への奨学金制度など、同社の地域貢献活動は多岐にわたる。糸井さんも、現地のエイズホスピスや病院に対する、日本の介護用品の寄付を企画するなど、「次」へのプラン作りはもう始まっているようだ。
「赴任当初はずいぶん近代的な都市だと思いました。でも、よく観察すると違う。そこにさまざまなチャンスがあると感じています」。ビジネスの場としての南アフリカを糸井さんはこう語る。入社後、日が浅い時期での南アフリカ赴任に最初は驚いたものの、さまざまな人種が交錯し、近代化への過渡期にあるこの国に今現在いることをエキサイティングに感じるという。人の話を聞くのが好きな糸井さんは、人種を問わず、職場の同僚たちにいまの自分達や社会の状況をどう考えているのかを聞いてみることもある。

「若い人はエネルギーにあふれ、将来へのしっかりしたビジョンを持っている人も多い。僕なら素通りしてしまうようなことに対しても、とても敏感に反応するように思います」。 一方でのんびりした彼らの仕事ぶりに戸惑うこともあり、時には日本の本社と板ばさみになることもある。
「素朴でどっしり構えているのは彼らのいいところだと思いますし、国独自の事情もある。でも同時に、国際的なスタンダードに近づかないといけないとも思うんです。彼らの考えや日本の考え、両方を理解した上でうまく仕事をまわしていきたいですね。それが今の自分にできる小さな社会貢献なのかもしれません」。自分が持っていたさまざまな認識を覆してくれたこの国に赴任したことを、いま、「先進諸国ではなく、アフリカでよかったなと思います」。言葉をかみしめるように答えてくれた。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年06月02日)

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