話に耳を傾けるうちに、選手たちが帰航してきた。
「なんとか付いてはいけたんですが……」残念そうな顔が結果を物語っている。

と、濱田さんが桟橋の中央に連れ出され、缶ビールとケーキが全員に回された。今日は濱田さんの誕生日なのだ。あいさつもそこそこに、頭からビールをかけられ顔には生クリームを塗り付けられ、濱田さんの顔はあっという間にぐちゃぐちゃだ。「顔、洗えよ」皆に手足をとられ振り回され、ザブンと派手な水しぶき!
国籍も障害も関係ないヨットマンたちの手荒い祝福に、濱田さんは桟橋から落とされたまま「一生忘れません」と律儀にカメラにポーズをとる。全員、大笑いだ。
その日の夜は、中国チームも交えてのお別れ会。「乾杯!」の声が響くなか、ソナー艇のメンバーに感想を聞いた。「盲人野球などの経験もありますが、ヨット独自の面白さは、さまざまな障害の方と一緒に、補い合っていけること。みんなは僕の手を引いて指示を出してくれますが、僕は逆に、高いところのものを車いすの人にとってあげられる」(麻生さん)
「今回の収穫は、チームワークがとれてきて意思疎通ができてきたこと。でも、世界レベルにはまだ達してないです。もっと練習しないと」(濱田さん)
「僕は初めてまだ日が浅く、自分の仕事も十分にできない。ここでは、自分達のレベルの低さも思い知りました。気持ちも足りないのかなと感じています」(野口さん)

パラリンピック出場枠12カ国のうち取材時点ですでに6カ国が決定しており、出場権獲得のためには今年9月のアメリカ遠征で結果を出す必要がある。だが、岩本さんの見方は厳しい。「勝つための意識が足りないんです。練習してないヤツは負けても悔しくない。練習していたら、もっと悔しいはずです」。
自らも全日本選手権連覇などの戦績を持つ筋金入りのヨットマン・岩本さんが10年以上ここでコーチを務めている理由は、「世界で一番になりたいから」。鬼コーチの熱い言葉に、選手たちは真剣な表情だ。
厳しい練習に、辞めたいと思ったことはないのかと須藤さんに問いかけると、「ありませんよ、一度も」。驚いた顔をする。「夜のレースで海ほたるや夜光虫に出会うような体験、ふつう、できないでしょう。海に出るたびに新しい発見があるんです」
話をうかがううちにも、青島の美酒に次々とメンバーは撃沈していく。その間を縫うように歩き、笑顔で気遣いを見せているのは飛坂さんだ。障がい者の宴席ではトイレや席の広さこそ大事で、店選びは彼にしかできない重要な役割。舞台裏から活動を支える彼に、この活動を通じて障がい者を見る目が変わったかと問うと、首を横にふる。「むしろ、社会を見る目が変わりました」。障がい者であろうとなかろうと、個人の能力を生かしきれていない社会に対して思うところが多いという。「まだまだ、やれることは多いです」。
さまざまな思いを載せて、全員の心は2008年9月のパラリンピックに向かっている。本番の日には、青島のマリーナに彼らの弾けるような笑顔が、必ずあるはずだ。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年08月04日)

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