「これは小さな石ですが、池に投じられたことで、波が広がっていくとうれしいです。」名古屋ボストン美術館を舞台にした「三菱商事アートシップ」キックオフセレモニーで、三菱商事中部支社長・金井義邦さんはこんな言葉でアートシップを表現した。

金井義邦さん
1968年三菱商事入社。97年10月米国三菱商事会社グループCOO(最高執行責任者)、00年4月燃料第一本部長、01年6月執行役員石油事業本部長、03年4月執行役員米国三菱商事会社EVP(Executive Vice President)を歴任後、05年4月常務執行役員中部支社長就任。
シップの意味は「仲間」。今回の活動では、アートをキーワードにいくつものつながりが小さな輪となって広がった。
ボストン美術館は、アメリカ合衆国ボストンに位置する130年の歴史を誇る名門美術館。欧米絵画のコレクションに加えて、東洋美術、とりわけ浮世絵の所蔵品は世界有数と言われる。名古屋ボストン美術館は姉妹館として99年4月に開館、米国ボストン美術館の所蔵品展示や、市民に向けた芸術イベント、教育プログラムなどを実施している。
「名古屋は戦災でたくさんの物、そして多くの美術品を失いました。名古屋の人々の思いがあるところになにか貢献したいと考えていました」(金井さん)
そこで、日本の伝統美術とのつながりも深い名古屋ボストン美術館に対して同社が提案したのが「三菱商事アートシップ」。愛知県内の身体障がい者施設(51施設、約2500名)を対象に、同美術館への年間フリーパス入場券「三菱商事アートシップ」カードを配布。カード1枚の提示により、介添者を含む施設利用者2名1組までが入場無料となる。平日3組、土日祝日2組の入場を受け入れることにしている。

「このスカートの質感、いいですねえ。」「どうやって描くんだろうね。」セレモニーの後、招待を受けた名古屋ライトハウス明和寮・小島盛幸さん、畑間孝次さんを始め出席者一同は同館の企画展「アメリカ絵画 子どもの世界」展を鑑賞した。すまし顔の子供、自然のなかの子供、働く子供。アメリカ社会における子供たちの変遷が見て取れる興味深いコレクションだ。明和寮のスケッチサークルに所属する小島さんと畑間さんは、もっぱら絵のタッチや技法に興味しんしん。とりわけ風景画が好きで、実際に絵に値がつき販売したこともあるという畑間さんは背景描写に心ひかれる様子。好きな画家は、モネだという。
「モネの絵はね、空気の描き方が違う。春の絵は空気が乾燥しているんです。」同館でモネの作品が展示されたときには何度訪れたことか、と振り返る。それだけに今回のカードは喜ばしいことのようだ。浮世絵が好き、という金井さんも数々の貴重な絵画に引き寄せられるように何度も足を止めている。

一同が感嘆の声をあげたのは、日本初公開のジョン・シンガー・サージェント「エドワード・ダーリー・ボイトの娘たち」。見上げるほど大きな画面いっぱいに、生真面目な顔をした少女達が生き生きとしたタッチで描かれている。
「大きいのはいいよねえ。これ、描くならどれくらい時間がかかるかなあ。」「僕は手がね、重いのが持てないから無理かな。でも今度は油絵にも挑戦してみようかな。」畑間さん、小島さん、二人とも創作意欲を刺激されたようだ。「絵は自分の子供みたいなものだから。本当は売りたくないしあげたくない。家に飾っておきたいんだ」
完成したらどうするのか、と質問すると、絵から目を離さないまま、畑間さんは笑みを浮かべた。

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