同社による文化的側面からの社会貢献活動はこれが初めてではない。長く続けていた児童養護施設の子供達を招待してのサマーキャンプに続き、07年2月に開催されたのが「旅立ちセミナー」。

「子供達の卒園式をより思い出深いものにしてあげたい、との思いから、テーブルマナーを学ぶような場を設けては、と考えたものです。名古屋マリオットアソシアホテルでフランス料理のフルコースをマナーを学びながら会食し、また、トヨタ自動車さんには施設見学をはじめ豊富な経験を持つ大勢のボランティアメンバーのご協力をいただきました。『金銭の協力ではなく、汗を一緒に流してくれと言われたのは初めてです』と言われましたね」
金井さんは回想する。いわば企画力で勝負したそのときの「汗を流す」経験が今回の活動につながった。とはいえ、このキックオフセレモニーは文字通りのスタート地点であることは、人々の言葉のはしばしから感じられた。
「本当は、付き添いなしで来ることができるといいのですが。」明和寮生活指導員・近藤健弘さんは言う。車椅子の小島さんは鑑賞ならば一人で出来るし、畑間さんは高次脳機能障害という脳の記憶にまつわる部分の障害で、一見、障がい者とは分からない。彼らの自立度や美術好きをよく知っているだけに、自由にさせてあげたい思いはあった。
「でも、今回のことを本当にうれしくありがたく感じているのも事実です。多くの障がい者が生きがいを見つけるのが難しいなか、彼らのように、熱中できることを見つけられた人は幸せなんですね。」
もちろん他の障がい者が美術に触れる機会が増えることもすばらしいこと。だからこそ、という思いはあるようだ。

いっぽうで、名古屋ボストン美術館も、考えさせられることも多かったようだ。「本当は、どんな方でも区別なく一緒に楽しんでいただけたらと思っています。」
学芸員の井口智子さんはこんな感想をもらした。理想は、誰かが手助けするのではなく、その場にいる人が自然に手助けが必要な人に手を貸すような施設や雰囲気であること。しかし、設備やマンパワーの都合で制限をつけざるを得なかったのは心残りのようだ。「これは一つのきっかけで、われわれも(活動を通じて)学びました。今回のことで、広がりや、つながりができたと感じています。」
それは、三菱商事の社員達も同じ思いだ。後編で触れるが、わずか3カ月の間に美術館や施設との調整を行い、活動の骨子を組み立てるのはお互いの連携がなくては難しかった。
「小さな石による波が広がり、輪になっていくといい。」金井さんはインタビューでも改めて繰り返した。さざなみは、確実に広がっている。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年10月06日)

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