「混」。
堤さんはホワイトボードに大きく図を描いて、ブラジルの魅力を表現した。
「混和、混然、混沌、混在、混血……さらに、文字の中に「水(さんずい)」、「太陽(日)」、「比率(比)」という要素が入っています。これらはみんな、ブラジルを表している」
先住民族、ポルトガル人、各国移民が広大な国で混ざり合い、共存するのがブラジルの面白さだ。
「この国は、混ざることへの抵抗感がなく、それが大きなエネルギーになっているように見えます。『純』にこだわる日本の対極、真のコスモポリタンになれる可能性を秘めた人々です」

移民も二世、三世の時代になり、記憶は薄れ新たなアイデンティティが生まれていく。日本人はこの地で「勤勉で頭脳明晰」という印象を持たれているが、それは先達の努力のたまもの。次の50年を経たのち日本人がどう評価されるかは分からないが、堤さんの存在はきっと大きな意味を持つはずだ。
「ひとりでも求める人がいて、伝えられることがあったらやってみたい」
今後の展望を堤さんはこう答えた。願わくば、今、居合道には世界大会が存在しないが、いつの日かそんな機会が訪れたら、生徒たちの後押しをしたいとも言う。
「ブラジル人を世界にアピールするお手伝いができれば、うれしいですね」
10年、20年経ったのちでも、ブラジルにはいつの日か再び戻りたい。そのとき隣にいて欲しいのはやはりこの人だ。

「(人生で)良かったのは女房と40年間一緒にいられたこと。今の活動を了解してもらっているのはありがたいですし、今後もそうあって欲しいです」
照れながら言う。その前日、稽古の風景を眺めながら早苗さんが、「もともと主人はブラジルに貢献したいと言っていましたしね。私自身も、人生でいちばん健康的な生活で、暮らしを楽しんでいます。こことの縁は、一生、切れないでしょう」
そんな話をしてくれたのは、内緒にしておいた。

(文・写真 山田静)
(更新日:2007年12月11日)
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