そんな張さんに、昨年ひとつの変化が訪れた。幼なじみからそのまま結婚した夫との間に、子供が産まれたのだ。しばしの産休から戻ったあとは、会社に頼んで業務を絞りこみ、残業を減らした。
中国の場合、子育ては家族ぐるみで行うのが一般的で、さらに都会では地方から出てきたメイドを安く雇うことができる。出産後も仕事を続けるのがあたり前だが、生活の調整は必要だ。


「(仕事も生活も)何もかも欲しがるのは無理ですしね。今は部下を信頼して、仕事を任せるようにしています」。今回の取材時には、出産後初めての希望小学校訪問。子供たちを見る目も変わった。「もっと生き生きしてもらえたらうれしいな、と。(心に)愛がいっぱいですよ」。柔和な笑顔はすっかり母親の顔だ。バランスを考えた暮らしぶりは日本人にはちょっとうらやましくも見える。「日本人は、人生の楽しみがもっと多いといいな、と思います」。真面目で責任感が強いためか、苦しそうにしている人が多いと感じることもあるという。


とはいえ、彼女と話していて感じるのも、その責任感の強さだ。5人姉弟の長女というのも影響しているのだろう。貧しい家庭ではなかったが、大学の学費はアルバイトをしながらほとんど自分でまかなった。今の夢も「きょうだいたちにもっといろいろしてあげること」だ。「夫からは、仕事のことも、周りのことも世話しすぎ、と言われます」と笑った。

中国人はほとんど例外なくお国自慢、そして郷土料理が大好きだ。張さんもしかり、家で食卓に並ぶのは味が濃いめの安徽料理、会話は安徽省の方言交じりだ。だが、「いまは、どのまちにも行きたくないくらい、広州が好きになっています」。同時にそんなことを言う。
「広州には包容力があります。もともと外部の人がたくさん来ていた場所なので、外の人を受け入れる文化がある。地元意識が強いところより、気持ちよく生活できるんです」。
いつかは梨の花咲く故郷に戻りたいとも思うが、それは今ではない。
「退職したら田舎で農業などしながら生活してみたいですよね」
広州を表す言葉が『包容力』なら、安徽省はどんな言葉が合うのだろう。

「『文化』でしょうか。中国がもともと持っていた文化が残る場所です。例えばそれは老人を尊敬することだったり、男女の役割分担だったり、親戚同士の礼儀作法だったり……。そんな、中国の昔ながらの価値観や伝統が生きている地です」
春秋時代には呉や楚の領土で、三国志の英雄・曹操や胡錦涛国家主席の出身地。安徽省は、海のシルクロードとして開放的な文化を持つ広州とはまた違う、歴史と伝統の息づく地だ。ちょっと古風にも見える考え方の源は、そんな風土から生まれたものかもしれない。
「お互いに勉強して、提携して、協力する。そういう関係であってほしいです」
中国も日本もよく知る張さんにとって、日本と中国の未来の道は別々のものではない。バランス感覚に優れた張さんのような新しい中国の仕事人たちが、新たな日中の扉を開く鍵になるはずだ。

(文・写真 山田静)
(更新日:2008年03月11日)
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