「ほほ笑みの国」とも呼ばれるタイは、異文化に寛容で、外国人に優しい国だ。タイを歩いていると、あまり外国にいる気がしない。わたしにとって初めてのタイ訪問だったが、リラックスできるし、居心地がいい。
タイの人たちは、外国人との距離の取り方が絶妙だ。けっして、なれなれしくはないけれど、目が会えばにっこりとほほ笑んでくれる。手を合わせて会釈する、「ワイ」というあいさつからは、他者への深い尊敬の念が伝わってくる。
そんなタイ人の他者への敬意、寛容の心を育んだものが仏教だ。
タイの仏教は本来、厳しい戒律や修業が必要とされるエリート的な小乗教なのだが、タイのお寺は親しみやすい。何ともいえない、くつろいだ空気が流れているのだ。
タイでは昔からお寺は庶民のための学校であり、集会所であり、社交場だった。王宮周辺の観光地化されたお寺にも、タイの庶民が日常的に訪れ、熱心に祈りをささげている。
1788年にラーマ1世によって建立された「ワット・ポー」もその一つ。かつては仏教や医学、美術を教えた大学で、今もタイ式マッサージの総本山だ。ここではマッサージを教えているだけでなく、実際に体験もできるというから驚きだ。
マッサージを受けている人の顔を見ると、まるで夢心地のように気持ちよさそう。どこかで見た表情だと思っていたら、それはここの本尊、涅槃仏(ねはんぶつ)だった。
デーンと寝転がった涅槃仏の顔を眺めれば、悟りの境地が実にリラックスした心地良いものであることが分かるだろう。
礼儀正しく、序列を重んじるタイ人の精神性は、長年、国民から敬愛されてきた王室の存在と無縁ではない。そして、王室のことを知るには、「王宮」を訪れるのが一番だ。ここには、世界中の観光客を魅了し続けているエメラルド仏を祀った王室専用寺院「ワット・プラケオ」もある。絢爛(けんらん)豪華な建築や、王家ゆかりの物語「ラーマキエン」を描いた壁画、エメラルド仏を安置した壮麗な堂など、ここには王様や仏をありったけの宝物と装飾で荘厳にしようとの、民衆の熱い思いが満ちている。

国王への尊敬の念は、タイの街の随所でも見られた。
街を歩けば看板やポスター、ビルの壁画などいたるところで国王の写真を見かけた。映画が始まる前には国王賛歌が流れ、必ず全員が起立するという。またバンコクの街を歩いていて、黄色いTシャツやポロシャツを着た人が多いのに気づいた。尋ねてみると、タイでは曜日ごとに色が決められており、王様の誕生日12月5日が月曜日だったため、祝福の意を込めて月曜日には、月曜の色である黄色い服を着る人が増えるという。日本でなら奇異に移るこんな現象も、この国ではほほ笑ましい。

(文・写真 関川隆)
(更新日:2007年04月07日)
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