初めてなのに、懐かしい。下手なキャッチコピーのようだが、台湾を初めて訪れる人の多くが、そんな感想をもらす。雑然とした町並み、漢字ばかりが並ぶ看板、ほどよい湿気を帯びた空気。確実に日本とは違うのに、不思議と「どこかで見たような」気がする地である。そして、その感じは、ジウフェンに行くとさらに強くなるはずだ。

20世紀初頭ゴールドラッシュに沸き返ったジウフェン周辺は、金鉱が尽きるとともに近代化から取り残されていったが、最近はレトロなたたずまいが逆に人気を呼び、週末ともなると観光客で大いににぎわう。
石畳の階段、転々と連なる赤い提灯。瓦屋根に格子窓。統治時代の古い建物は日本の影を色濃く残し、そこに台湾の人々のまろやかな笑顔が溶け込んでいる。茶藝館の店主は客人の様子を見ながら付かず離れず世話を焼き、土産物屋は客が味見をするだけでも満足げに微笑む。
日本人が台湾を「懐かしい」と思う大きな理由のひとつは、このまろやかな人々だ。急ぎ足な香港の人々とも、きっぱりとした大陸の人々とも違う、相手にあわせてくる独特のリズム。ゆったりしすぎない、けれど急ぎすぎてもいないこの速度は、祖母や祖父の時代の日本人と同じ速度に思われてならない。

もう1か所、日本を思い出させる場所を訪れてみた。
もうもうたる線香の煙のなか、イマドキな服装の若い女性、スーツ姿の男性、友達と連れ立ってきたおばあさん……夕暮れどきの行天宮は、台北に住むあらゆるタイプの人たちが集まったかのようだ。
仏教の影響を色濃く受けた道教が盛んな台湾には、良縁の神様・月下老人、医学の神様・保生大帝などさまざまな神様がいて、人々は必要なとき必要な神様にお参りする。ここ行天宮を訪れる多くの人の目的は、ずばり「商売繁盛」。長い線香を掲げて一心に祈る人、何度も木札を投げておみくじを引く人、境内の片隅でお祓(はら)いをしてもらう人。神様も風習も日本とは違うが、ここに流れる大らか、かつまじめな空気は、日本の神社と通じるものがある。

しかしもちろん、そんなレトロ感だけが台北を形づくっているわけではない。「これができてから方角に迷わなくなった」と在住の日本人が言うほど、台北の空に唐突にそびえたつのは高さ508メートル、101階建ての「台北101」。現時点では世界最高の超高層ビルである。周辺にはブランドショップやおしゃれなレストランが集まったビルや巨大なシネコンが建ち並ぶ、台湾でいま最も注目されているスポットだ。
同ビルの世界最高速・分速1010メートルのエレベーターで展望台に上った。眼下に広がる台北の夜景は、大都市にしてはおとなしく感じられるが、市内で最もネオンが密集するのが今立っているこのエリアであることを考えると納得である。現地の人が言った、「台湾のインフラ整備は、すべてこれからなんです」という言葉が思い出される。
訪問最終日の早朝、国父紀念館を訪れた。近代台湾の父と仰がれる孫文を記念した建物で、周囲を埋め尽くすのは運動に励む老若男女だ。おなじみの太極拳、棒を使った拳法、音楽に合わせた運動体操、果ては社交ダンスまでその様子はまさに圧巻、台北名物の朝の光景である。公園の横には市場があり、こちらも大にぎわい。運動帰りの人々やご近所さんが朝食を食べたり新鮮な食材を買い求めたり。買うほうも売るほうも朝から元気いっぱいだ。
市場からの帰りがけ、音楽にのって体操をするグループ越しに空を見上げると、「台北101」が天高くそびえていた。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年05月05日)
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