本部(もとぶ)半島はちょっと不思議なところだ。沖縄本島中部にちょこんと突き出た地形は世界有数の美しい海が堪能できる海岸線を形作り、内陸の丘にはアセロラやパイナップルなど果物がたわわに実る。

手ごろな距離には風光明媚(めいび)な離島が点在し、美ら海(ちゅらうみ)水族館に今帰仁(なきじん)城址という観光の目玉もある。と同時に、本部石灰岩の産地として砕石業もさかん。観光客も工事の業者も数多く行きかう、一種独特の活況を呈(てい)する場所である。
那覇から本部に向かう道中、名護を過ぎたあたりからじょじょにダンプカーやトラックの姿が目立ちはじめる。護岸工事、砕石工事、ホテル建設。本島の海岸線は埋め立てで形を変えた、と地元の人に聞いた話もあながち大げさではないようにも思えてくる。
75年に沖縄国際海洋博覧会場となってからは特に、本部は開発の波にさらされ続けてきた。それでもなお、ここには損なわれることのないものが数多く残っている。

さわさわと葉の擦れる音がかすかに響き、木もれ日が風でゆらめきながら小路に影を落とす。丸みを帯びた葉をびっしりつけた木が、気持ちいいほどまっすぐに天に向かって高く背を伸ばし、かなたまで続く並木となっている。
フクギは、福木とも書く。1年に何度も強い台風に襲われる沖縄では、台風から身を守るのは、命にかかわる重要なこと。人びとは家のそばや海辺に頑丈なフクギを植えて家を守っていた。かつては風の通り道ならどこにでも見られたというこの木は、沿岸の開発が進み、鉄筋の家屋が増えるにつえて沖縄本島では消えていったが、本部半島の北岸、備瀬や今泊付近ではいまも広範囲で保存されている。周辺は民家が立ち並ぶ集落だが、並木に足を踏み入れると風ばかりでなく音も遮断されてしまったかのように、静寂が支配していた。

本部を訪れる多くの人のお目当てはやはり「美ら海水族館」だろう。ジンベエザメが泳ぐ巨大な水槽を最大の呼び物に、展示の面白さも手伝いいまや年間240万人が訪れる人気スポット。取材当日もひっきりなしに修学旅行生がやってきて、館内は大にぎわいだ。水族館がある海洋博公園は、もとはといえば沖縄国際海洋博覧会の跡地である。350万人を動員したあのイベントは、本部にとって大きな転機だったろうと思ったのだが、「あれはあんまり(景気に)関係なかったなあ。工事がいっぱいあったから、仕事は多かったけど」「もうかったのはヤマトンチュ(本土の人)さ」と、地元の人はあっさりと返してきた。

スカッと晴れた訪問最終日。瀬底島とは違う海や古い家並みを見たいとタクシーの運転手に相談すると、「今日みたいないい天気なら」と、半島の北東部に車を走らせた。
サトウキビ畑が連なる屋我地(やがじ)島を抜けると、古宇利(こうり)大橋に出る。全長1960メートル、無料で通れる日本一長い橋だ。青空のもと、白いまっすぐな橋がエメラルドグリーンの海を突っ切り古宇利島へとつながっている。ドライブルートとしてここ数年人気だというが、橋を渡った古宇利島は拍子抜けするほど「なんてことない」外周8キロ弱の島。訪れる人もまだ少ないという。
高台から家並みを見下ろすと、目にしみるような青い海を背景に、古い家、新しい家がぽつぽつと並んでいる。古い家はすぐわかる。なぜなら、家にぴったりと寄り添うように数本のフクギが幹を伸ばしているからだ。ここでもさわさわと、海風が葉を揺らしていた。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年07月07日)

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