話には聞いていた。
名古屋人の名古屋好きである。「自分たちは名古屋弁を話しているとは思っていないんです。自分たちこそスタンダードだと思っているところがあるので。」「ひそかに郷土愛が強いのですが、あまり前には出さないですね。」

地元の人は口々に言う。伝統文化とも違う、独自の風習が色濃く残るのも、そんな郷土愛のなせるわざなのかもしれない。たとえばそれは、お土産文化だ。
「最初のころは驚きました。飲み屋に行ったら、帰りがけに『はい、お土産』と小さな包みを手渡されて。開けてみたらアンパンが入っていましたよ。」
金井義邦さんは赴任当初を回想した。喫茶店でコーヒーを頼むと必ずピーナッツなど「おまけ」がついてくるのも有名だ。取材の合間にドラッグストアをのぞいてみたら、目玉セール化粧品のパッケージは、品物の何倍もの大きさ。ある化粧水にセットされていたのは、コットンパフ+試供品数種類+同商品の小さなボトル+歯みがき粉。東京でも同じようなおまけは付くが、質量が違う。そのぶん値引きしてくれないかと思うのだが、地元の人に言わせるとそういうことではない。

「お買い得ではなく、お値打ちという言葉が好きですね。値切りはしないです。それより『こんなにたくさん付いていて、こんなに安い』という気分的な得を大切にするように思います。」
商売の基準は、値段よりも相手を気分よくさせること。そして買うほうも、値段より実をとるのが名古屋の気風だ。その日の夜、料理屋で取材がてらひつまぶしを食していると、「ご縁ですから」と手渡されたのは、お土産の手ぬぐいだった。
「人見知りするけれど付き合うと面倒見がいい。」付き合いにおいては、名古屋人はそう評される。「なかなか入れないんですが、いったん付き合うと長いし、他地域に比べると、細かい値段を比べたりしないようですよ。」
とっつきにくく照れ性だが仲良くなると親切。それは、日本人気質そのままで、金井さんも「世界の中の日本は、日本の中の名古屋と似ているようです。」と言う。

名古屋の誇りと独自性は、食文化にも現れている。がんらい郷土料理が豊富な日本だが、名古屋は、一般的な「ふるさとの味」とは一線を画したメニューも多い。小倉あんをトーストにはさんだ「小倉トースト」、とろみのあるあんをスパゲッティにかけた「あんかけスパ」、海老天をおにぎりに載せた「天むす」、辛い肉味噌をたっぷりトッピングする「台湾ラーメン」……。B級グルメだったはずのものが続けるうちに市民権を得、しまいに名古屋名物として観光客を呼び込んでいる。タクシーの運転手はこんな話を聞かせてくれた。「妻は岡山出身なんですが、最初にみそ煮込みうどんを食べさせたとき、こんなのはうどんじゃない、と。讃岐うどんとは違いますからね」。みそにまつわる苦労は絶えないようで、「うちではみそ汁があまり出ないんですよ。みそは外出先でできるだけ食べてます」と笑う。誰もが「みそカツやきしめん、みそ煮込みうどんなんてあんまり食べない」といいながら、こだわりの味を語りだすと止まらない。ただそんなとき、うれしそうなのと同時に、恥ずかしそうにしているのがちょっと面白い。
やっぱりこのまちは、通りすぎるには惜しい個性とこだわりにあふれている。
(文・写真 山田静)
(更新日:2007年10月26日)

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