カキーン!
おなじみの金属バットの快音が空に響く。
街角の広場で見かけたのは、少年たちの草野球。空振りするとやんやの喝采、日本ではあまり見られなくなった光景だ。
ここベネズエラは、南米では珍しい野球大国。アレックス・カブレラ、ロベルト・ペタジーニ、大リーグの強打者ミゲル・カブレラ……。特に通でなくてもその名を知るほどの名選手たちが世界で活躍している。

翌日、カラカスの野球スタジアムを訪れた。野茂英雄投手がこの秋カラカス・ライオンズと契約し、ウインターリーグに参加するのは耳にしていた。この日はカラカス・ライオンズの試合があるはずだった。
「ノモ?」「ノモ!」「ノーモォ!」
大きなカメラを抱えた日本人は目立つのか、要所要所の係員から次々と声がかかる。「ノモ」のひと言は「開けゴマ」の呪文となり、どんどん奥へと案内され、しまいに試合前の練習場を見学させていただいた。現地の男性が、近くを通りかかった選手に声をかけると、
「7時30分から全員そろうよ。ノモが着いたら教えてあげる」
気さくな笑顔が返ってきた。

残念ながら訪れた翌日の試合では野茂は4失点ノックアウト、だがその後は着実に調子を上げていると聞く。
「カラカスに行く」と言うと、多くの人からは「?」という反応が返ってきた。アルゼンチンやブラジルに比べれば移民の数も少なく、サンバやタンゴといった分かりやすいキーワードも見当たらない。だが、知らず知らずのうちに、日本とこの国は近いところにいる。

それは例えば野球だったり、あるいは世界チャンピオンを輩出するボクシング。亀田興毅戦で話題になったファン・ランダエタもベネズエラの選手だ。さらに美人の産地としても有名だ。
ミス・ユニバース4回、ミス・ワールド5回という実績は世界の中でもトップランク。美の基準は地域や人種でずいぶん異なるが、多くの血が混ざり合ったこの地には、万人受けする美女が多いように思った。道ですれ違う女性、駐車する車のハンドルを握る女性。目があうとにっこり微笑み、カメラを向けると角度まで決めてくる。

あとで聞いた話だと、娘たちは子供の頃から自分を魅力的に見せる方法を母親に学ぶのだとか。同じような話をアジアに名だたる美女の産地・ベトナムでも耳にしたが、なるほど、美女は1日にしてならず、である。
「今、カラカスには日本食レストランが50軒以上もあるんですよ。5年前は日本食はファッションでしたが、今はみんな味が好きで口にしています」
ウルダネータさんは語った。日本食は生活に溶け込み、現地の人との会話でも「エヴァンゲリヲン」「ドラゴンボール」といった名前がすらすら出てくる。

いっぽうで彼らの生み出すものも、日本の流行に着実に入ってきている。
大げさにいうと、日本のチョコレート業界はこの国のカカオがないと成り立たないんですよ」
在住の日本人が教えてくれた。質の高いベネズエラのカカオ豆は高級チョコブームに乗り、日本のメーカーには欠かせないものになっているのだという。
「資源豊富で気候のいいベネズエラのことを『神様の贈り物』と表現する人がいますが、カカオの収穫風景を見ていると、手の届く高さに実があるせいか、とてものんびりして見えます。ああ、本当にこの地は神様の贈り物に恵まれているなあ、と思いました」
帰国後荷物を整理していたら、「お土産に」と渡されたチョコレートが出てきた。日本で販売されている、ベネズエラのカカオを使った少し高級な品だ。
実際はもちろん違うだろうが、さわやかな気候の中、のんびりと収穫に励む絵本のような人々の姿を思い浮かべながら、ビターチョコレートを口に含んだ。ちょっぴり、以前とは違う味に思えた。
(文・写真 山田静)
(更新日:2008年01月05日)

※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。