年をとるにつれ昔の出来事の記憶は薄らいでいく。だけど、あの4人に関する「この日」だけは、忘れてしまいたくはない。20世紀最高のファブ・フォーをこよなく愛する人たちへ。ビートルズの4人にまつわる日付を手がかりに、思いつくまま、気の向くまま、つらつらと記していきます。
1967年のこの日、全世界に「愛」というメッセージが届けられた。英国・BBCが企画した、全世界を網羅する史上初の衛星生中継番組「アワ・ワールド(Our World)」に英国代表としてビートルズが出演。ロンドンにあるEMIのアビー・ロード第1スタジオから、新曲「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ(愛こそはすべて)」の演奏が初めて披露された。
番組出演が決まると、どの国の視聴者にも理解できるシンプルな内容の曲づくりを依頼され、ジョンとポールは別々に着手した。自然な流れでジョンの曲に落ち着いたという。普遍的な「愛」を訴える曲のメッセージは、当時の若者が抱いていた理想を見事に写しとったと評価されている。
ベトナム戦争は激しさをましていた。各地で反戦を訴える平和的な抗議運動も起きていた。「あの曲のいいところは、誤解する余地がないところだ。愛がすべてという、明快なメッセージを持った曲だから」と当時のマネジャー、ブライアン・エプスタインは語っている。ちなみに“落選”したポールの曲は「ユア・マザー・シュッド・ノウ」だった。
生放送されたスタジオには、地球儀をあしらった風船や発売されたばかりのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のジャケットにあるような花が飾られ、パーティー会場のような雰囲気があった。色彩豊かなサイケ調の服を着た4人は、正装した13人編成の楽団員をバックに演奏した。コーラス・ゲストに呼ばれたミック・ジャガー、エリック・クラプトン、キース・ムーンらが彼らを囲んでいた。フランス国歌の一節から始まる曲目には、「イン・ザ・ムード」「グリーン・スリーブス」「シー・ラヴズ・ユー」などなじみの曲も織り込まれた。「愛さえあれば」にあたる言葉を数カ国語で書いたプラカードが、国と人種を超えた団結という曲のメッセージを強調した。さながら、アフリカの飢餓を救おうと英米のミュージシャンが連帯した「ライブ・エイド」(1985年)の先駆けのような番組だったのだろう。
彼らの偉業は、しばしば大げさな数字で伝えられる。74年に僕が買ったレコードの解説書には「15億人がみた」とあった。地球に住む2人に1人が見たことになる。アンソロジー(映像編)の解説書には「推定4億人」とあった。「3億人」はプロデューサーのジョージ・マーティンの言葉。生中継された国の数も、日本も含めて「31カ国」「26カ国」「24カ国」など諸説ある。5大陸にまたがったことは間違いなさそうだ。
僕は長い間、「ビートルズが衛星生放送番組で新曲をレコーディングした」と信じていた。レコードの解説書にそう書いてあったからだ。正しくはビートルズのレコードディング・セッションを再現したものだ。事前に別のスタジオで伴奏トラックが録音され、さらにボーカルを加えて6分に短縮されたトラックをつかい、4人が当日のライブで歌い演奏したのだった。
しかし、この日のジョンの姿を映像で見ていると、彼にとってビートルズ時代、最後のハイライトシーンだったのでは、と思えてならない。ヘッドフォンを左耳にあて、チューイングガムをかみながら全世界に愛のメッセージを伝える。「史上初」という冠はいくつも経験した彼だが、頂点を極めたという達成感を強く受けるのだ。
約2カ月後、4人を英国の港町から世界のスターダムへと押し上げたブライアン・エプスタインが変死体で発見される。マネジャーの死を知らされ、インタビューを受けるジョンの顔は青ざめていた。“落選”したポールが、次第にグループのリーダーを演じなければならなくなるのは、それからだ。

【A面】
【B面】
上林 格(かみばやし・さとる)
1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2007年06月25日)
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