年をとるにつれ昔の出来事の記憶は薄らいでいく。だけど、あの4人に関する「この日」だけは、忘れてしまいたくはない。20世紀最高のファブ・フォーをこよなく愛する人たちへ。ビートルズの4人にまつわる日付を手がかりに、思いつくまま、気の向くまま、つらつらと記していきます。
50年前のこの日、世界を変える2人の若者が出会った。英国の港町リバプールにあるセント・ピーターズ教区教会。よく晴れた暖かい土曜日の午後、恒例の夏祭りが開かれていた。
友人のアイバン・ボーンに誘われたポール・マッカートニーは、自宅から約2キロ離れた教会に自転車でやってきた。母親を病気で失ってからのポールは音楽にのめり込んでいた。会場に着くなり、野外ステージのバンド演奏をみつけるとすぐに足を運んだ。
チェックのシャツを着て、ブロンドの髪をちょっとカールさせた、なかなかセンスのいい男に目がいった。ドラマーがいないスキッフルバンドをバックにして、デル・バイキングスの「カム・ゴー・ウイズ・ミー」を歌っていた。
「歌詞は間違っていたけど、歌はうまくてかっこよかった」
ステージに立つジョン・レノンを初めて観たポールの感想だった。ジョンは自分がつくったバンド、「クオリーメン」を率いていた。
ジョンはまもなく16歳9カ月になろうとしていた。ポールは15歳になったばかりだ。日本でいえば高校3年生と1年生の関係だから、お互いがものすごく年の差を感じているころだ。
ジョンは近所でも評判の不良少年だった。学校は違ってもポールは彼の存在を知っていた。バスの中では遠くから見ていた。「あんまりジロジロ見ると殴られるぞって思っていた」。どこか人を寄せ付けない雰囲気をジョンに感じていた。
だが、この日、ジョンのステージ姿をみたポールに魔法がかかった。
実は、アイバンはジョンの友人で、クオリーメンの“時々メンバー”でもあった。ポールを教会に誘ったのは、リーダーのジョンに引き合わせてバンドに入れようとしたからだ。
ことはアイバンの思惑以上に進んだ。演奏が終わるとポールはアイバンと一緒に楽屋を訪ねた。夜のステージに備えていたメンバーは、全員が未成年だったがビールを飲んでくつろいでいた。ポール少年も場に合わせて精一杯、いきがって見せた。
夜のステージが終わると、20世紀最高のオーディションが始まった。
ポールはメンバーの前でピアノを弾いた。「ロング・トール・サリー」「トゥティ・フルティ」などリトル・リチャードの曲をやって見せた。茶箱や洗濯板を楽器にしていたスキッフルバンドのメンバーは驚いた。続いて左利きのポールは右用のギターを逆さに持ち、エディ・コクランの「トゥエンティ・フライト・ロック」の歌詞を正確に歌って見せた。これにはジョンもぶっ飛んだ。さらにポールは「トゥエンティ・フライト・ロック」とジーン・ビンセントの「ビー・バップ・ア・ルーラ」の歌詞を紙に書いてジョンに渡した。最後にギターのチューニング方法を教えて、とどめを刺した。
ジョンは、ギターのコードを2つしか弾けなかった。しかも、母親から学んだ、弦が5本しかないバンジョーの弾き方でギターを演奏していた。家に帰り、ポールに教わったコードの押さえ方を覚え直した。
ポールに出会ったときのことを述懐するジョンの言葉には、自分と同等の、あるいはそれを上回る「何か」に出会った時の恐れと喜びが対峙する。
「もしポールを仲間に入れたら、僕は彼をいつも追いかけていなきゃならないかもしれない。でも、ものすごく上手だから仲間に入れる価値はあった。それに、エルヴィスにも似ていた。要するに、僕はあいつに惚れたんだ」
数日後、ポールはクオリーメンのメンバーのピート・ショットンにまちで出くわし、「僕らのバンドに入る気はないか」と誘われた。ジョンは無二の親友ピートにポールのメンバー入りを相談していた。ポールは嬉しくて仕方がなかったというが、その気持ちを押し殺して「考えとくよ」とだけ返事した。今度はアイバンを通じてジョンに「イエス」と伝えた。
記録によれば、その年の10月18日、ポールはリバプール市内であったクオリーメンのギグに初めて参加する。バンド名が「ビートルズ」と変わり、世界制覇に向けてデビューするのは、それから5年後になる。

【ディスク:1】
【ディスク:2】
上林 格(かみばやし・さとる)
1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2007年07月06日)
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