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この日のビートルズ

9月5日甲虫日記 TV映画「マジカル・ミステリー・ツアー」制作が本格化

年をとるにつれ昔の出来事の記憶は薄らいでいく。だけど、あの4人に関する「この日」だけは、忘れてしまいたくはない。20世紀最高のファブ・フォーをこよなく愛する人たちへ。ビートルズの4人にまつわる日付を手がかりに、思いつくまま、気の向くまま、つらつらと記していきます。

ビートルズを成功に導いたマネジャー、ブラインアン・エプスタインが過度の薬物摂取による不慮の死を遂げた。4人は予定していたインド行きを延期。今後は自分たちがマネジメントすることを決め、遅れていた映画「マジカル・ミステリー・ツアー」の制作を本格化させた。

40年前になる1967年9月5日、4人は映画挿入歌となるジョンの曲「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のレコーディングに入る。これを皮切りに未完成だったタイトル曲などの挿入歌を仕上げ、2枚組の6曲入りシングル盤として12月8日に英国で発売した。

最高位は2位。トップの座を阻んだのは、11月24日に発売した彼らのシングル「ハロー・グッドバイ」だった。ジョンは「アイ・アム・ザ・ウォルラス」がポールの曲のためB面に追いやられたことを侮辱だと感じていた。

シングル盤のA面をめぐり、ジョンとポールは常につばせり合いをしてきた。愛しあい、競い合い、嫉妬(しっと)もする。これがビートルズ・マジックの原動力だ。解散後、ちょっとずつ効果は薄れていくが、ジョンが射殺されるまで2人には魔法がかかっていた。

映画のアイデアはポールによるもの。アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の録音が一段落した同年4月、恋人ジェーン・アッシャーの誕生日を祝うため米国へ。旅行中、「カッコーの巣の上で」の原作者ケン・キージーが恋人とバスで国内横断旅行する冒険談を読んで、ビートルズがカラフルな大型バスに乗って多彩な俳優陣ともども奇妙なバス旅行に出る、というあらすじを思いついた。

8ミリカメラを使い、電子音楽のサウンドトラックをつけて、映画を自作する作業に熱中していたポールは、「脚本のない映画制作」が念頭にあった。ロケ地と俳優陣は決めておくが、ストーリーは撮影を進めながら、成り行き任せで展開していくというものだ。

英国へ帰る飛行機の中でアイデアをメモに書きとめ、タイトルソングのメロディーと詞を1行書き上げた。数日後、ほかのメンバーにメモを見せると、4人はその日のうちに60分の特別番組をつくることを決めた。4月25日にはタイトルソングの録音にとりかかる。

しかし、アニメ映画「イエロー・サブマリン」のためのレコーディング、初の世界衛星生中継テレビ番組「アワ・ワールド」への出演と多忙を極めていた。ようやく映画のための録音が再開した矢先の8月27日、マネジャー、エプスタインの死に遭遇する。

撮影のほうは9月11日から始まった。人気コメディアンや抽選で選ばれたファンら総勢43人が、ボディーに「MAGICAL MYSTERY TOUR」のペイントを施したバスでロケに出発した。ところが、この派手なバスがマスコミやファンの追跡を受けて予定外のハプニングを引き起こし、ことは構想通りに進まなかったという。

約52分のTV映画に編集され、12月26日のゴールデンタイムにBBCから英国全土に向けてTV放送された。視聴率75%という関心の高さだったが、カラー作品なのに白黒で放送された不運も重なり翌日の新聞は猛烈な酷評を浴びせた。

「難解」「ナンセンス」「ビートルズも失敗をする」「神話の終焉(しゅうえん)」――。

日本では68年にテレビ放送された。4本のフィルム・リールの順番が間違ってオンエアされたのに視聴者からの反応はほとんどなかったそうだ。僕は30年ほど前に映画館で初めてみた。4人が白いタキシード姿で「ユア・マザー・シュッド・ノウ」を歌いながら長い階段を下りてくるラストシーンにたどりついて、ようやく安心したのを覚えている。一体何の話なのか、彼らの作品を好意的に見るのにも限界があると感じていた。

だが、この映画にストーリー性を求めてはいけない。60年代後期のサイケデリック時代に先駆的につくられたロック・ムービーと考えれば随所にみるべきところはある。

なかでも「アイ・アム・ザ・ウォルラス」の演奏シーンは出色だ。

ポールの合図でリンゴがフィルインする冒頭からゾクゾクさせられる。4人がセイウチのマスクをするアイデアはレコードジャケットに採用された。手をつないだ警官がバスの後について草原を歩いていくエンディングは、映画全体を包むシュールリアリスティックの象徴だろう。

「黄色い膿(うみ)みたいなカスタード、緑のぐちゃぐちゃのパイ、死んだ犬の目と一緒にまぜて、パンにベシャッと塗りつけろ……」

意味不明でナンセンスな言葉がちりばめられた風変わりな曲は、詞の意味を探ろうとするものをわざと混乱に陥れるために書かれたようだ。

曲が完成すると、ジョンは親友のピート・ショットンに「こいつの解釈は、イカレポンチどもにおまかせしようぜ」と告げたという。

「この日のビートルズ」の次回の更新は、9月14日です。この日はなんの日でしょうか? お楽しみに。

お知らせ

ジャケット写真

『マジカル・ミステリー・ツアー』

  • 1998.3.11発売 EMIミュージック・ジャパン

収録曲

  1. マジカル・ミステリー・ツアー
  2. フール・オン・ザ・ヒル
  3. フライング
  4. ブルー・ジェイ・ウェイ
  5. ユア・マザー・シュッド・ノウ
  6. アイ・アム・ザ・ウォルラス
  7. ハロー・グッドバイ
  8. ストロベリー・フィールズ・フォーエバー
  9. ペニー・レイン
  10. ベイビー・ユーアー・ア・リッチマン
  11. 愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)

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また、今年8月25日に、「MAGICAL MYSTERY TOUR:ROCK MILESTONES」のDVDが発売されました。

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Profile

上林 格(かみばやし・さとる)

1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2007年09月05日)

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