年をとるにつれ昔の出来事の記憶は薄らいでいく。だけど、あの4人に関する「この日」だけは、忘れてしまいたくはない。20世紀最高のファブ・フォーをこよなく愛する人たちへ。ビートルズの4人にまつわる日付を手がかりに、思いつくまま、気の向くまま、つらつらと記していきます。
1963年、英国はビートルズ一色に染まった。音楽誌チャートの首位を独占。テレビ・ラジオの出演は50回を超え、250日近くのステージもこなした。彼らを追いかけて交通をマヒさせたり、コンサート会場で金切り声をあげたりするファンの執着と熱狂ぶりから、有名な「ビートルマニア」という言葉が生まれた。
前年10月にレコードデビューした4人が英国のスターダムにのし上がるのに長い時間は必要なかった。初のナンバーワン・ヒットは年明けに発売された2枚目のシングル「プリーズ・プリーズ・ミー」。2月22日付でニュー・ミュージック・エクスプレスの1位に輝いた。
その後は「フロム・ミー・トゥ・ユー」(4月発売、2週連続1位)、「シー・ラヴズ・ユー」(8月発売、通算6週1位)、「抱きしめたい」(11月発売、6週連続1位)と、この年発売したシングル4枚がたて続けに1位になる。
ファースト・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」は5月8日付から29週間連続で首位の座を続け、11月27日付で2位に落ちると、入れ替わって1位になったのはセカンド・アルバム「ウイズ・ザ・ビートルズ」。これは21週間連続で1位を守り、同じグループが連続50週間首位を続ける離れ業を達成した。
しかし、この年のハイライトは「ロイヤル・バラエティー・パフォーマンス」の出演につきる。芸能アーティスト慈善基金を支援するため11月4日、ロンドンのプリンス・オブ・ウェールズ・シアターでエリザベス皇太后、マーガレット王女、スノードン卿らが臨席して開かれた。
マレーネ・デートリッヒも出演者に名を連ねた御前演奏に19組中7番目に登場した。プロモーターのバーナード・デルフォントは、英国国教会の重鎮やプレス関係者の気分を害するかもしれない危険を承知したうえでビートルズを招いたという。10歳になる彼の娘の推薦があったとされるが、宮殿からおとがめはなかった。
カーテンが上がってすぐに「フロム・ミー・トゥ・ユー」を始めたが、客席からはいつもの歓声や金切り声は聞こえてこなかった。彼らの視界の先には、社交界の名士やこれからデビューしようとする淑女らが宝飾を身にまとって座っていた。
1年ほど前までは革ジャン姿で演奏していた「おにいちゃん」たちにとって、ここは明らかに場違いだった。
続いて「シー・ラヴズ・ユー」を演奏し、ポールが名作ミュージカル「ザ・ミュージック・マン」からの曲を歌うと告げる。「いつもちょっとフラットなポール」は、ボードビルの女王と呼ばれ、およそビートルズが好きとは考えられない歌手ソフィー・タッカーが「ビートルズがお気に入りの米国のグループだ」と冗談をいって会場を少し沸かせた。そして「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」を演奏した。
ジョンは最後の曲「ツイスト・アンド・シャウト」を紹介する際、あの名文句を発する。 「最後の曲になりましたので、みなさんにも少し協力していただきたく思います。安い席の方は拍手を、そのほかの方は宝石をジャラジャラ鳴らしていただけますか」
会場が爆笑の渦に包まれる中、ジョンはクイーン・マザーにおちゃめに一礼するのを忘れなかった。
客席にいたブラインアン・エプスタインは胸をなで下ろした。本番前、ジョンは楽屋で「そのいまいましい宝石とやらをジャラジャラ鳴らしてみやがれ、とでもいってやるか」と話していたからだ。
「ぼくもひどくあがっていた。だけどちょっとばかり反抗的なことを言いたかった」とジョン。アンコールは許されなかったが、称賛の拍手が長引き、次の出演者のディッキー・ヘンダーソンの登場が遅れてしまった。
翌日、「ビートルズが王室をロックさせる」と見出しをつけた新聞もあった。全国紙のデイリー・ミラーは「ビートルマニア!」の見出しで「ロイヤル・バラエティー出演者の首根っこをつかみ、ティーンエージャーみたいに『ビートルマニア』にさせたのは実に爽快(そうかい)だった」と書いた。
このショーは6日後にテレビで全国放送された。王室や上流階級をやんわりと皮肉ったジョンの当意即妙なジョークは、彼らの人気とその後の評価を決定づけたといっていい。ショーのあとに4人と会って会話を交わしたクイーン・マザーは、後に「彼らが一番興味深かった」と発言している。
「この日のビートルズ」の次回の更新は、11月24日(更新は11月22日)です。この日はなんの日でしょうか? お楽しみに。



上林 格(かみばやし・さとる)
1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2007年11月2日)
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