年をとるにつれ昔の出来事の記憶は薄らいでいく。だけど、あの4人に関する「この日」だけは、忘れてしまいたくはない。20世紀最高のファブ・フォーをこよなく愛する人たちへ。ビートルズの4人にまつわる日付を手がかりに、思いつくまま、気の向くまま、つらつらと記していきます。
1962年3月7日、ビートルズは英国放送協会(BBC)ラジオの軽音楽放送番組「ティーンエージャーズ・ターン/ヒア・ウイ・ゴー」の収録に参加し、ラジオ初出演を果たした。
番組は翌日の3月8日(木)午後5時から5時29分に放送され、ビートルズの演奏が初めて公共の電波にのった。
BBC専属のバンド、ノーザン・ダンス・オーケストラをメーンに、ゲストを呼んで演奏を聴かせる公開録音番組。収録はマンチェスターのプレイハウス・シアターで行われ、ビートルズは午後3時45分からリハーサルを開始。午後8時から8時45分まで、観客の前で公開録音に出演した。
ビートルズは、他の出演者の演奏を間に挟みながらシンディ・ウオーカーの作品「Dream Baby(How Long Must I Dream?)」、チャック・ベリーの「Memphis,Tennessee」、マーヴェレッツのデビュー・シングル「Please Mister Postman」の3曲のカバーを演奏した。
ラジオ出演は、マネージャーになったブライアン・エプスタインが実現させた成果のひとつである。エプスタインは、寸暇を惜しんでビートルズを売り出すために、あらゆる手段を試みていた。
放送網の利用もそのひとつ。当時の英国にテレビ局はATVという民間放送局が1局あるだけで、ラジオはBBCが独占していた。エプスタインはBBCマンチェスター支局に入念に書き上げた申請書を提出し、2月12日にラジオ番組のプロデューサーのオーディションを受ける機会をもらっていた。
そこでビートルズは4曲を演奏。ジョンとポールがそれぞれの自作曲とカバー曲を1曲ずつわけて歌った。
番組プロデューサーの評価は、ポールの歌については「だめ」、ジョンについては「よし」とした。バンド全体については、「個性的なバンド。ほかのグループと違って、いかにもロックという感じではなく、カントリー&ウエスタン風の趣が強く音楽性も高い」と上々の評価。こうしてラジオ初出演が決まった。
この日、ビートルズにとって劇的な変化があった日でもある。ラジオの聴衆には見えなかったが、初めてスーツを着用して人前で演奏したのだ。
えりが極端に細いグレーのツイード・スーツとネクタイ。バーケンヘッドのグレインジ・ロード・ウエストにある洋服仕立屋ビノ・ドーンで、1着40ポンドで仕立ててもらった。この日を境に、黒い革ジャンとジーンズにスニーカーという格好に別れを告げた。
エプスタインは、ことあるごとにビートルズに言い聞かせていた。
「もし本気で成功して頂上まで登り詰めたいのなら、プロらしい振る舞いとそれにふさわしい身なりをしなければならない」
ポールは素直に従った。ジョンは一番上のボタンをはずしたりネクタイをまげたりして、少し抵抗をみせた。ジョージが結論を語る。「僕らはもっと仕事がほしかった。それにこういうことも必要だとわかったのさ」
もっともこの時期に、エプスタインが最も精力的に動いたのは、レコーディング契約を取ることだった。
1月1日にデッカ・オーディションを受けたが、2月初めには不合格の通知を受け取っていた。ラジオ出演は、そんな落ち込んでいた時期に舞い込んできた朗報だったのかもしれない。
初のラジオ出演。司会者がビートルズを紹介した後に歓声と拍手が起こるが、まだ「ビートルマニア現象」ほどの熱狂ぶりではない。1曲目「Dream Baby」のリード・ボーカルをとるポールはやや緊張気味。歌の途中からジョンとジョージのバック・コーラスが入る。1回目が「シャラ・ララ」で、2回目は「ベイビー、ア・ハン」。なんだかビートルズっぽくない、のんびりした雰囲気だ。
「ラヴ・ミー・ドゥ」でレコード・デビューする約7カ月前の出来事。ジョージ・マーティンに出会うのも、リンゴ・スターをメンバーに迎え入れるのも、すべてこの後のことだ。
「この日のビートルズ」の次回は、3月20日(更新は19日)です。この日はなんの日でしょうか? お楽しみに。



上林 格(かみばやし・さとる)
1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2008年03月07日)
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