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この日のビートルズ

3月20日甲虫日記 記録ずくめのニューシングル

人類がまだ月面着陸を夢見ていた1960年代、英国出身の4人の若者が世界を席巻した。ポピュラー音楽史の記録を次々と塗り替えただけではなく、文化、思想、生活スタイル、あらゆる分野に強烈な影響を与えた。語り継がれる20世紀最高のファブ・フォーの「この日」にこだわってみました。

イントロなしで始まるストレートなロック・ナンバー。グループとして6枚目にあたり、1964年初のシングル「キャント・バイ・ミー・ラヴ」は3月20日に発売された。

2月に全米制覇を成し遂げたすさまじい勢いを象徴するかのように、まさに記録ずくめの曲として音楽史にその名が刻まれている。

英国では予約だけで100万枚、米国では210万枚まで達し、いずれも当時の最高記録を塗り替えた。英国では24日に初チャート1位に輝いてから4週連続1位に。米国では5週連続1位になり、「抱きしめたい」「シー・ラヴズ・ユー」と3曲あわせて14週連続1位を記録した。英米で同時にチャート1位になった初めての曲にもなった。

米国の音楽誌「ビルボード」で初の1位になった4月4日付チャートでは、1位から5位までを同一バンドが独占する、レコード史上空前絶後のことが起きた。

2位「ツイスト・アンド・シャウト」、3位「シー・ラヴズ・ユー」、4位「抱きしめたい」、5位「プリーズ・プリーズ・ミー」。しかも「ホット100」以内に計12曲がランク・インしていた。同時にビートルズはアルバム・チャートでも「ミート・ザ・ビートルズ」と「イントロデューシング・ザ・ビートルズ」で1位と2位を占拠していた。

2週目の1位に輝いた4月11日付チャートでは、1位〜5位独占の形は崩れたが、「ホット100」に計14曲が入り、記録を更新。

既発シングルのB面や27日発売予定だった「ラヴ・ミー・ドゥ」のほか、シングル・カットされていない「オール・マイ・ラヴィング」「ロール・オーバー・ベートーヴェン」までもが片っ端からランク・インした。「キャント・バイ・ミー・ラヴ」のB面「ユー・キャント・ドゥ・ザット」は48位だった。

このモンスターな曲のほとんどは、ポールの手によるものだ。

米国初上陸前の1月29日、パリ公演中にEMIのパテ・マルコーニ・スタジオで録音した。「アンソロジー1」に収録されているテイク2は、曲の始まりがヴァース部分から入っていた。ポールのアイデアによるブルージーなボーカル、ジョンとジョージのバック・コーラスも入れていた。

だが、「イントロの部分、即座に耳に引きつける部分が必要だ」というジョージ・マーティンのアイデアで、曲をサビ部分のコーラスから始めることにした。それでも、全米制覇直前の勢いはレコーディングにも乗り移り、たった4テイクですべてとり終えている。

映画「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」では、中枢をなすシーンで使われた。

リハーサル演奏が終わり、自由を求めて外に飛び出す。重い扉をあけたとたんに広がる空。4人はたちまち非常階段を駆け下りる。そこで流れるのが「キャント・バイ・ミー・ラヴ」だ。広い空き地をふざけ回る4人を、ヘリコプターから空撮したシーンが印象深い。

何日も車、列車、楽屋、ホテルに閉じこめられたグループにとって、久々の解放的な時間だったはずだ。

監督のリチャード・レスターの解説はこうだ。「そこで、彼らは解放されるんだ。その解放感を視覚的に見せる必要があった。突然、映画は広々とした感じになる。それがキャント・バイ・ミー・ラヴのポイントだった」

警察署からリンゴを救い出す際、警官と追いかけっこするシーンでも、この曲が効果的に使われている。まるで「主題曲並」の扱われ方だ。

64年から65年にかけてのコンサートで、よく演奏された。65年10月26日、ビートルズがバッキンガム宮殿の大謁見室でMBE勲章を授与された際には、軍楽隊がこの曲をマーチにアレンジして演奏した。

ジャス・シンガーのエラ・フィッツジェラルドのヴァージョンは、64年5月6日付ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌で30位の小ヒットを記録。

曲のタイトルから、売春婦を連想させる歌だと指摘する向きもある。これに対しポールは「一線を引きたくなる。そりゃ行き過ぎというものだよ」と憤っていた。

「この日のビートルズ」の次回は、4月10日です。この日はなんの日でしょうか? お楽しみに。

ジャケット写真

お知らせ

「ザ・ビートルズ ファースト U.S.ヴィジット」

ビートルズのアメリカ初上陸40周年を記念して、1964年2月7日のアメリカ上陸から22日のイギリス帰国までの4人を徹底的に追ったドキュメンタリー映像。

  • 2004年4月14日  EMIミュージック・ジャパン

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Profile

上林 格(かみばやし・さとる)

1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2008年03月19日)

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