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この日のビートルズ

7月17日甲虫日記 エピーの遺産、黄色い潜水艦

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87分の映画の最後の場面にビートルズ本人たちが登場する。映画づくりのために1日だけ提供することが、ブライアン・エプスタイン(エピー)がサインした契約書に記してあった。4人が望んだというよりは、契約義務による出演に近い。挿入歌16曲のうち映画のための新曲はわずか4曲。ジョージ・マーティンは著書で、「新曲に限って言えば、あの映画の音楽はビートルズの凡作をかき集めたものにすぎない」と斬り捨てている。

だから、プレミア上映の9日前にマスコミ向け試写会に出席して映画を観たビートルズは、心底ショックを受けた。目を見張るような革新的なアニメーション技術をふんだんに駆使した映画は、ポピュラー音楽初のアニメーションによるミュージック・ビデオといえるくらい素晴らしい出来だった。

「Lucy In the Sky With Diamonds」のシーンは、実写フィルムに細工して絵の具をぶちまけてつくった。「Eleanor Rigby」はリバプールの写真や絵はがき、スタッフの写真まで使った。1曲1曲のシーンが、サイケデリックを意識した強烈な色づかいで印象的につくられている。

映画制作に多大な貢献をしたのがチェコ出身のデザイナー、ハインツ・エーデルマンだ。彼が描いた4人のキャラクターは、テレビアニメと違って非常に細かく描き込まれていた。

リバプールの街をさまよっていて潜水艦に後をつけられるリンゴ。フランケンシュタインのような体から現れたジョン。超越的瞑想(めいそう)の霧の中から登場したジョージ。ポールはクラシック音楽のコンサート会場から出てくる。4人の登場シーンが彼らの個性をそれぞれ象徴している。4人の友人でリバプールの詩人、ロジャー・マゴフによって書き換えられたせりふも、ビートルズ独特のユーモア・センスを引き出している。

登場人物も奇想天外だ。「Nowhere man(ひとりぼっちのあいつ)」の場面に出てくるブーブ博士。つま先が開くと銃が飛び出す特大ブーツをはいたギャング。アップル・ボンカーズは、背が高くシルクハットをかぶった青い顔の男たちで、敵の頭に巨大なリンゴを落とす。

世界中から約200人のアニメーターを集めて11カ月で作りあげた。プレミア上映の時も最終的な脚本は存在せず、パッチワークのような張り付け作業だったという。最終作品には、誰のものと特定できない即興的なアイデアが数多く採用されている。

「All You Need Is Love(愛こそはすべて)」のシーンでは、ジョンが歌いながら言葉で塔と網をつくり、ブルーミニーの秘密兵器、「恐怖の空飛ぶ手袋」を撃退する。

米ソ冷戦時代。「人類はひとつ、地球もひとつ」という倫理観を歌ったこの曲を聴いて、自分たちで戦争を終わらせようという思いを強くした若者もいたに違いない。ビートルズは、若い世代が求める変化を代弁した。

99年、映画は再公開された。「SGT PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」時代のビートルズの姿、顔が、そっくりそのままよみがえった。ユーモアにあふれ、陽気で若々しいビートルズの全盛期の姿だ。

映画の完成を見ずに急死したエピーの功績のひとつは、未来の子どもたちのためにビートルズの姿を永遠に残す必要性を見通していたことだ。

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「この日のビートルズ」の次回は8月3日です。この日はなんの日でしょうか? お楽しみに。

お知らせ

サウンドトラックアルバムとして製作された「イエロー・サブマリン」は、映画公開翌年の69年1月に発売された。「イエロー・サブマリン」「愛こそはすべて」などを収録したが、オリジナルアルバムとしては全米・全英ともナンバー1を獲得できなかった。

ジャケット写真

イエロー・サブマリン

  • 1998年03月11日 EMIミュージック・ジャパン

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Profile

上林 格(かみばやし・さとる)

1962年生まれ。この年、ビートルズが「LOVE・ME・DO」で英国デビューした。1986年、朝日新聞社に入社。東京本社社会部、地域報道部、東京総局など勤務。東京版で「ビートルズの目撃者 日本公演から40年」を連載した。

(更新日:2009年07月17日)

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