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人類がまだ月面着陸を夢見ていた1960年代、英国出身の4人の若者が世界を席巻した。ポピュラー音楽史の記録を次々と塗り替えただけではなく、文化、思想、生活スタイル、あらゆる分野に強烈な影響を与えた。語り継がれる20世紀最高のファブ・フォーの「この日」にこだわってみました。

ビートルズがプロデュースしたテレビ映画「MAGICAL MYSTERY TOUR」の挿入歌「The Fool On The Hill」は、バラードの名手ポールによる作品だ。

この曲を使ったシーンは、奇妙きてれつなバス旅行をテーマにした53分間の映画の前半に登場する。陽の光に包まれたポールのシルエットが印象的なシーンや、岩から岩へとポールが飛び移るシーンなどの映像で構成されている。

この映画は、「ビートルズ初めての失敗」とマスコミから酷評された映画だが、作品を評価する以前に、サイケデリックな色彩感覚の映画を、白黒で放送したことが最大の失敗なのだろう。当時映画を学んでいた若きスティーブン・スピルバーグは「アート作品」として注目していた。そんな前衛的な作品のなかにあって、「The Fool On The Hill」のシーンは、素人でも落ち着いて観ていられる数少ないシーンだ。

撮影は、1967年10月31日、風光明媚(めいび)で知られるフランス南部の海岸コート・ダジュールにあるニースで行われた。

ビートルズは企画から脚本、編集のすべてにわたって自分たちの手で制作した。マネジャー、ブライアン・エプスタインが不慮の死を遂げた後、最初に手がけたプロジェクトだった。

ただ、映画を制作するには、素人すぎた。撮影した約5時間分のフィルムの編集作業を始めると問題が続発した。挿入歌と映像が一致していない程度ならまだ良かった。「The Fool On The Hill」の場合、この曲のシーンそのものを撮影していなかったのだ。

急きょ、ポールとロード・マネジャーだったマル・エヴァンス、撮影技師のオーブリー・デュワーがフランスへ撮影に出かけた。よほど慌てていたのか、ポールはパスポートも財布も忘れて家を出たのだった。このため、フランスの入国審査に多少の手間がかかった。電報を打って、送金の手続きを取り、航空便でパスポートを取り寄せた。

撮影場所をわざわざ国外にしたのは、労働組合の規約との関係があった。規則では、映画制作の現場ではカメラマン1人だけの撮影は許されず、必ず助手や照明係、雑用係を付けなければならなかった。しかし、追加撮影は急がなければならなかった。国外ならば規則は適用されないだろうと、危険な賭けに出たのだ。幸い、この点は問題にならなかった。

ようやくホテルに着くと、翌朝3時半に起こしてもらうサービスを頼んだ。予約したタクシーの運転手には「日の出を撮影するのに一番いい場所に連れて行ってくれ」と頼んだ。翌朝、一行は、車で1時間ほどニースの奥の方にある山岳地帯に向かった。

撮影は日の出を待って始められ、日没まで続いた。撮影中、ポールは自分のそばにカセット・テープを置き、曲を流して歌詞と口の動きをあわせることを意識した。「正確にやろうとは思わなかった」と彼はいうが、こうした所作にポールらしさを感じるのだ。

「丘の上の愚か者」のモデルになったのは… 次のページへ

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