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わが心の日本映画

第4回 デビュー、アイドル、そして女優へ
−常に変化をとげる吉永小百合

2008年2月『母べえ』の大ヒットに続き、11月には早くも新作『まぼろしの邪馬台国』が公開、出演作は113本を数え、ますます演技と美しさに磨きがかかる吉永小百合。これまでの作品の背景などについて、映画評論家の大久保賢一氏が解説した。

 
「朝を呼ぶ口笛」©1959松竹
「青春大全集」©1970松竹

■吉永小百合、そのまぶしすぎるデビュー

 『朝を呼ぶ口笛』は吉永小百合が日活専属となる直前の1959年に撮られた松竹作品。貧しさの中での葛藤(かっとう)と希望を描くこの作品で、彼女の役柄は主人公である新聞配達の少年を励ます高校生の少女。その後も吉永小百合が演じ続けた明るさ、ひたむきさが作品を照らす光になっている。主人公を演じた加藤弘とは、この作品に続いて『まぼろし探偵 地底人襲来』(60年・新東宝)でも共演している。昭和の、日本社会がまだ「貧しさ」も普通のものとして持っていた時代、ひとの善意もまだ普通のものと受け取られていた時代。近年のノスタルジア・ブームに乗った『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)で描かれたフィクションとしての「昭和のつつましさ」とは違って、この作品に見える東京の景色も、「人の光景」も、観客にとってはアクチュアルなものだった。映画は時代を写し、スターも時代を表わす。吉永小百合の作品も、その豊かなキャリアの全期間を通じて時代を映し出してきた。

■「青春の明るさ」からの脱皮

 『風の慕情』と『青春大全集』という1970年の2本の作品は、彼女が日活と契約しつつ、他社出演の自由を獲得したことで実現した作品だ。60年代、彼女は知性と庶民性を併せ持つ希有なアイドルとして出発し、闊達(かったつ)な役柄を演じる青春映画に出演し続けることでスターとして成長してきた。しかし、そのジャンルそのものが、時代の変化に追いつけず、縮小していくなかで、彼女はイメージチェンジの機会を模索していたといえるだろう。

 『風の慕情』は、かつての戦争で受けた姉の心の傷を妹が知ってゆくドラマを、オーストラリアを舞台に描くサスペンス。脚本を橋田寿賀子、監督が中村登、音楽いずみたく、姉を演じたのは香山美子。そしてドラマのキーになる役で石坂浩二。彼は65年のNHK大河ドラマ「太閤記」での石田三成役で注目を集めて以来、テレビでの人気によって映画出演も始めていた。初共演の二人は後に市川崑監督『細雪』(83年)、『おはん』(84年)で再び共演することになる。

 『青春大全集』(水川淳三監督)は、野村芳太郎 監督の原案からジェームス三木 が脚本を書いた。ピアノ調律師をしているヒロイン律子の、恋人との結婚に揺れる気持ちが描かれる。恋人役は劇団四季の「白痴」「ハムレット」などの舞台で人気を集めていた松橋登。彼の映画デビュー作だ。松橋演じるピアニストとは対照的に堅実な青年医師役で恋敵を演じるのが竹脇無我。父親役の三木のり平がコミカルな部分を受け持つ。恋人たちを翻弄(ほんろう)する孤児の設定などに、ヒロインのまっすぐな気性と愛情を描く意図が見える。そして恋人の仲間たちの描写には、70年当時の時代の空気(フリー・セックスなど)が見える。

(記事提供元:松竹ON LINE)

プロフィール

大久保賢一(おおくぼ・けんいち) 1950年生まれ。映画評論家。早稲田大学在学中に映画上映と16ミリ映画製作の活動を開始。各雑誌での作品解説のほか、東京国際映画祭をはじめとした各国の映画祭で審査委員も務める。著者に「荒野より」(立風書房)他多数。フジテレビ「ミッドナイト・アートシアター」、NHK-BS「シネマパラダイス」などに出演。現在、多摩美術大学造形表現学部非常勤講師。

(更新日:2008年08月19日)

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