ロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズといった超一級スターの濃すぎる顔ぶれ、そしてタイトルの「陰謀」という言葉から、事件の真相を追う驚愕(きょうがく)の政治サスペンスを連想し、期待する人も多いだろう。だが、その手のハリウッド的な陰謀モノを期待すると肩透かしにあう。これはいわゆるサスペンス劇場ではない。自分たちの現状について考えさせるタイプの映画だ。感覚的には「朝まで生テレビ」などの討論番組に近い。討論の仕掛け人は、レッドフォード。7年ぶりの監督作となる。
この作品は一つの戦場、二つの討論で構成されている。
第1ラウンドは、トム・クルーズ扮する若き共和党上院議員アービングと、メリル・ストリープが演じるベテラン・ジャーナリスト、ジャニーンの対決だ。対テロ戦争のシナリオがどのように組み立てられ、どのように報道されていくのかを描く。対テロ政策で成果をあげ、野心の達成を目指すアービングは、ジャニーンにある「斬新な作戦」について進んで語り出す。議員の口から聞く超特ダネだ。ジャーナリストにとっては願ってもないチャンス。だが、すべてをうのみにしていいのか。ジャニーンはその作戦のきな臭さを感じ始める。カリスマ性と巧みな話術、人当たりのいいチャーミングな笑顔にエレガントな身のこなし、そして時折、見せる狂信的な強引さと高慢さ。間違いなく選挙に強そうな議員をトムは完璧(かんぺき)に演じている。
トムが押しの強い剛の技だとしたら、それを受け止めるメリルはまさしく柔の技。柔らかい物腰と物言い。トムとは対照的だが、一瞬の表情の変化で感情を語る演技は、さすがとしか言いようがない。もし、メリルではなかったら、トムの大演説だけが目立ってしまうところだが、彼女の聞く演技が討論のスリルを引き出している。メモを取るリズム、ペンを鳴らすタイミング、視線、メガネをいじるしぐさ……座りっぱなしの制限を課せられても、メリルはありとあらゆる方法でジャニーンという人物像の奥行きを広げていく。
第2ラウンドは、レッドフォード演じる大学教授マレーとその生徒であるトッドのやり取り。戦争や今、起こっている問題をどう受け止めているのかを討論する。最近、出席率が悪いトッドを呼び出し、理由を問いただすマレー。優秀で将来性もある生徒が、目の前の楽しみに逃避し、才能を浪費していく現状、そしてその背後には「無関心」という問題がはびこっていた。マレーは志願兵となった2人の優秀な教え子の話を始める。
そしてこの二つの討論をつなぐのが、アービング上院議員が机上で考えた「斬新な作戦」を実行するアフガニスタンの紛争地帯、つまり戦いの現場だ。その犠牲となったのは、世界に無関心ではいられないと、理想に燃え兵士として志願したマレーの教え子だった。そこで机上と実践の違いをまざまざと見せつけていく。
その彼らの雄姿を背景に、マレー教授は「あれほど勇敢なライオンたちが、あれほど臆病(おくびょう)な羊たちの指示に従っている戦場はほかにない」と語る。これは世界大戦でイギリス兵と戦ったあるドイツの将軍の言葉を引用したもの。原題であるLions for Lambs(羊のために働くライオン)は、このセリフからとっている。羊は実際に危険なところには行かない臆病者を象徴し、ライオンは理想に燃える勇敢な者を象徴する。第1次世界大戦後、戦争は変わったと言われている。実際に戦争を始めた者は、安全な場所で机上の空論を立て、ボタン一つで簡単に何百万人もの人を殺せるようになった。それを象徴した言葉だ。
常識が違う政治の世界、常識が通じない戦闘地帯、その二つの異世界を教育という身近な世界に落とし込んでいく、監督レッドフォードの語り口は見事だ。まさに知性が生み出す最高のスリルが味わえる。
だが正直、怖い映画でもある。「君ならどうする? どう感じる?」鋭い質問が飛んできて、いやが応でも、問題に向き合わないといけなくなるからだ。
これはレッドフォードという一人の映画人が真摯にぶつけた「大いなる問いかけ」だ。レッドフォードが進行役を務める1時間32分の討論会。熱い。そして後を引く……。ニュースよりも戦争を身近に感じることができるというのは、現代の皮肉かもしれない。
(Written by 柏木しょうこ)
(更新日:2008年04月02日)

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