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「デュプリシティ/スパイは、スパイに嘘をつく」

スリルと遊び心が詰まった「大人だまし」の諜報合戦
 
©2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

国際スパイの転職先は、産業スパイ。狙うは、ライバル企業の新製品情報――企業の存続をかけた諜報(ちょうぼう)合戦を描いた本作は、まるで脳の訓練パズルのようだ。タイトルの「デュプリシティ」の意味である「二枚舌」「ペテン」の通り、観客をだましにかかる作品だが、「子供だまし」ではなく、なんとか目の肥えた現代の大人の観客にひと泡吹かせてやろうと挑戦的なトリックを仕掛けている。二重三重のウソと事実を絡み合わせた意地悪なストーリー展開は、思考力フル回転で挑まないと、事実を見失う、かなり手の込んだ「大人だまし」のスパイ・エンターテインメント作品だ。

スパイたちの新たな戦場となったのは、業界トップシェアを誇る老舗(しにせ)メーカー、バケット&ランドル(B&R)社と、躍進が目覚ましいエクイクロム社。犬猿の仲である2社は、互いに相手を出し抜こうと躍起になっていた。エクイクロム社は、かねてからB&R社を監視していたスパイチームに、新たな助っ人として元MI6のレイ(クライヴ・オーウェン)を迎える。レイは初仕事として、B&R社に潜入している味方スパイと接触することになったが、そこに現れたのが元CIAのクレア(ジュリア・ロバーツ)だった。レイはMI6時代、クレアに苦い思いをさせられていた。そんな過去にある因縁がある二人のスパイが、思いがけず企業スパイとして再会し、腹の探り合いが始まるのだが……。

産業スパイの諜報合戦を軸に、因縁のスパイ同士の恋を絡め、スリリングかつユーモラスにウソと真実を暴きだしていくストーリーを仕掛けたのは、監督・脚本のトニー・ギルロイ。彼は、「ボーン・アイデンティティー」など、「ジェイソン・ボーン」3部作の脚本を手がけ、冷戦時代の終結とともにすっかり下火になっていたスパイ映画を現代に復活させた陰の立役者だ。さらに大手法律事務所と大企業の癒着の実態を描いた社会派「フィクサー」で監督デビューを飾り、今、最も注目されている監督・脚本家の一人だと言える。スパイ作戦進行中の現在に、裏事情の過去を挟み込み、サンドイッチ形式に進むストーリー展開に、観客は油断するひまもないだろう。過去は国際舞台で活躍する華やかなスパイ、現在は金のために企業に使われる生活感たっぷりのスパイ。そのコントラストも皮肉が効いている。

©2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

このようなスピーディーな展開かつ複雑な仕掛けものの映画では、出演陣のキャラクター性が重要になる。一度見たら忘れない存在感だ。だからこそストーリーを見失わない。その意味では、元CIAのヒロインを演じるジュリア・ロバーツは、十分にその威力を発揮している。久々の主演復帰作になるが、やはりこのスターは存在感の大きさからしても主演が似合う。相変わらず華やかで、パンチがある。そして相手役には「クローサー」でも共演したクライヴ・オーウェンを迎え、一筋縄ではいかない恋愛を演じている。相手を信じることから恋愛は始まるというが、この二人はスパイなので、相手をまったく信じることができない。この「もしも、スパイ同士が恋に落ちたら」という恋愛も見ごたえがあるし、何よりもこの二人の相性が抜群だ。

そして、ライバル会社CEOを演じたトム・ウィルキンソン(「フル・モンティ」「フィクサー」)とポール・ジオマッティ(「サイドウェイ」「シンデレラマン」)という二人の名わき役に触れておこう。そもそもスパイたちが取り扱う案件が、国際的な陰謀から企業の商品情報とは、ずいぶんと深刻度がおちる。つまり、あさましく、ちょっぴりせこい世界なのだ。そのあさましさとせこさを、この二人の個性派俳優がユーモアに変え、因縁の対決を軽快に彩ってくれる。

誰が一番「たぬき」なのか。本作は、スパイ映画というより「スティング」のようなペテン師作品に近い。華麗なる、だけど遊び心たっぷりの「大人だまし」の世界を堪能してほしい。

 

(Written by 柏木しょうこ)

(更新日:2009年05月07日)

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