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映画散歩

レビュー 映画評論家や著名人による映画レビュー

あの空をおぼえてる 〜少女亡くした家族 再生の軌跡

譜めくりの女 〜際立つ妄執の怖さ
撮影:大橋 仁

真っ青な空に白い雲が浮かぶ中を、幼い女の子が幸せいっぱいに飛んでゆくシーンから、映画は始まる。だが、それは少年が臨死状態で見た妹の姿で、娘を失って悲しむ両親に、妹が楽しそうだったとは話せない。死の淵(ふち)から蘇(よみがえ)った小学4年生の少年は、ひとり心を痛める。

地方都市で写真屋を営む若い父親は、兄妹だけで買い物に行かせたことが交通事故を招いたと自責の念で落ち込む。妊娠中の母親は、悲嘆に暮れ、職場でも呆然(ぼうぜん)としている。竹野内豊と水野美紀の好演を支えて、田園風景が美しく、アメリカ風の家や庭の子ども用の遊び小屋が濃密な雰囲気をかもす。

そんな中、少年の描き方が素晴らしい。例えば家での退院祝いのシーン。少年はハンバーグをむしゃむしゃ食べるが、両親の手は動かず、重苦しい気配が流れる。と、家族4人が同じテーブルを囲んで食事中、幼稚園児の妹が元気に歌う姿のカットが入る。少年はほほえみ、同じ歌を大声で歌う。両親が目を見張り、顔を曇らせる。

少年も妹の死が悲しいが、いつでもどこでも、ふと思い出すと、いたずら好きの陽気な妹がそこにいる。だから、現在のシーンの随所に回想シーンが挟み込まれ、ごっちゃになる。妹は回想でしか登場しないのに、生き生きと魅力的で、生命力にあふれている。映画ならではの見事な表現といえよう。

だが、両親は少年の心のあり方に思いが至らない。大人と子どものズレ、というべきか。愛する家族を失った悲しみに重ねて、そのことがドラマとして描き出されるのである。少年はズレによる思いを妹への手紙に書く。だから、ズレもまた悲しいけれど、そんな少年の心の力があるからこそ、3人は家族の再生へ向かって歩み出す。

少年役の広田亮平が子どもの心を微妙に演じ、妹役の吉田里琴が天真爛漫(てんしんらんまん)に輝く。先生役の小池栄子とスクールカウンセラー役の小日向文世もいい。そして、1枚の森の写真がドラマの中に点在して目に染みる。

正真正銘、感動あふるる家族映画で、GW最大の贈り物である。監督は冨樫森。

(山根貞男・映画評論家)

掲載:2008年04月25日朝日新聞夕刊紙面

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