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トム・ハンクスが演じるラリーという中年男は、海軍で20年もコックをやって退役して、いまは大型スーパーの販売員をやっている。陽気に楽しそうに骨惜しみせずに働くからだろう、「今月の人」という店内の表彰を8回も受けている。それなのにリストラが始まるとあっさりクビになった。理由は、大学を出ていないからこれ以上の昇進が無理だからだという。
喜劇としての冗談めかした趣向のひとつにすぎないのだろうとは思うが、これが風刺だとしたらきつい。学歴偏重もそこまできたのか。
この映画はしかし、そんな企業社会の風潮に疑問を呈するより、そういう労働者も行けるいい大学もあるという話になる。ラリーはアルバイトと就職活動をしながらコミュニティー・カレッジに通うことになる。これはアメリカで発達した教育制度で、年配の社会人が若者と一緒に気軽に学問できるところに特色がある。ラリーはそこで経済学とスピーチの授業に出る。
経済学は難しい理屈を言っているようだが、社会人としての人生経験に照らし合わせて解釈するとけっこう面白いし、ジョージ・タケイの演じるマツタニ教授の怪演で笑わせる。スピーチはたいへんだが、勉強すると誰でも人前で立派なことが言えるようになる。おまけにラリーは悩み多きその美人の先生のお友達になる。先生を演じるのはジュリア・ロバーツ。というわけでこれは学園ロマンスの一風変わった中年版である。
トム・ハンクスは自身コミュニティー・カレッジで学んだそうで、製作、脚本、監督も兼ねてその良さを楽天的に謳(うた)いあげている。たしかに面白い大学だ。でもやっぱり、労働者が仕事で評価されなくていいのかなあと思う。
(佐藤忠男・映画評論家)
掲載:2012年5月11日朝日新聞夕刊紙面
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