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映画散歩

スペシャル 編集部オリジナル企画

オペラを観に、映画館へ来てほしい。
「魔笛」〜ケネス・ブラナー監督インタビュー・記者会見

魔笛
© THE PETER MOORES FOUNDATION-2006

ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトが生涯の集大成として完成させたオペラ「魔笛」。豊かな娯楽性と華やかな音楽性を備えたオペラ史上の金字塔として2世紀以上にわたり、世界中で愛され続けている。

そのマスターピースを完全映画化。斬新なストーリー・テリングとビジュアルマジックによって観(み)る者を虜にする、シネマオペラを完成させたケネス・ブラナー監督にお会いした。



ケネス・ブラナー監督
―― 俳優としてはもちろん、映画監督として数々のシェイクスピア作品を手がけられてきましたが、今回選んだのは、モーツァルトなんですね

一番大きな違いは、楽曲、音楽です。すでに音楽が存在しているので、導かれるような形になる。作品の構造、形が、あるレベルまで出来上がってしまっている。そのなかでも、どこか開放感を見つけることができました。シェイクスピアの場合は、シーンの順番を入れ替えたりすることがあるんですが、今回は楽曲の順番が決まっているので、それができない。時には拘束服のように感じたこともあったけれど、かえっておもしろかったです。

―― 好きな場面は?

個人的に一番好きなシーンは、かなり変わっています。目のアップからカメラを引いていくと人の顔ではなく、砂袋が顔になるところ。絵画のようで奇妙でもあるし、オペラを映画化しているからこその場面だと思っています。音楽はとてもダークだけれど、生の神秘といえるような部分に触れるような場面です。

ケネス・ブラナー監督
―― 映像と音楽を調和させるのに、特に重視された点は?

音楽監督・指揮者であるジェイムズ・コンロンさんと一緒にキャストを決めていったわけですが、なかなか意見が合わないときもありました。たとえば、パミーナを演じているエイミー・カーソン。私はすごくぴったりだと思っていますけれども、オペラの世界で求められるパミーナは、もう少し年を重ね、成熟した声を持っている人のようです。映画では、すばらしい声を持っているというだけでなく、演技力も必要になってくるし、ある程度のルックスもキャスティングする際のポイントになってきます。

そして、調和やハーモニー。音楽に対して忠実であることを心がけました。具体的に言い換えれば、こういうふうにこの物語はつづられるべきだということを音楽に教えてもらうということだった。シェイクスピアのときも同じですが、「題材にヒントが隠されている」とよくいわれます。

―― オペラを舞台ではなく、映画化した経緯は?

それまでのオペラのイメージは、チケット代が高いなど、少し距離があるように感じていました。ストーリーが理解しにくく、演技が時に大げさかなとも感じていました。

今回の作品は、ピーター・ムアーズという、オペラ界で活躍され、芸術のパトロンでもある方の、オペラ界の外から映画を作ることによってオペラに対する扉を開いてくれないかという願いに端を発しています。

「魔笛」という作品は、もともと大衆を意図して作られていて、世界で一番興行回数が多いオペラ。あまりオペラに慣れていない方でも分かってくれるような作品を作ってほしいという要望でした。我々が普段からもっとも親しんでいる映画というメディアで観せることで、オペラというものを知ってもらいたいと思いました。

ケネス・ブラナー監督
―― 時代設定が第一次世界大戦に置き換えられていますね

魔笛はこれまでも、本当にさまざまな舞台設定で、作品として形にされてきています。最近では、月面を舞台にして演じられるなど、そもそも魔笛の世界観は、どんな設定でもできる。あるいは作り手に設定をゆだねる作品なんですね。第一次世界大戦を選んだのは、この時代というのは非常に叙事詩的なスケール感も大きいですし、ロマンスもあり、アドベンチャーもあり、そういったさまざまな要素を持ち合わせている。これがこの魔笛の持つ音楽的な世界に非常にマッチするのではないか、ということで選んだんです。

―― 本格的なオペラ歌手をたくさん起用されていますが、演出面で特に大変だったことは?

実は、今回の演出をしているなかで、ひとつのきずなでまとまることができたんです。「恐れ」「こわいな」という気持ちでひとつになることができたんですね。

自分にとってオペラの世界に足を踏み入れるのは初めて。彼らにとっても映画の世界に足を踏み入れるのは初めて。お互いにこわいなという気持ちを持っていた、という意味でひとつにまとまることができたんです。お互いに謙虚な気持ちで臨んだんです。私にとっても、音楽、歌、楽曲について学ばなければいけないことが多かったですし、彼らもカメラの前で自然に、人間らしくリアルにオープンでいなければいけない。謙虚だったからこそ誠実な映画作りができたのでしょう。

―― 俳優業よりも監督業に重きを置いているのですか?

アプローチ、企画から3年半、「魔笛」の制作にかかっています。確かに長かったが、すごく楽しい時間でもありました。この間、毎日、モーツァルトを聞く機会に恵まれました。今までそういう機会がなかったので、自分にとってはごほうびのような時間でした。監督業では、この3年に毎年映画を1本ずつ撮っているんですね。そろそろ演技の方もやりたいなと思っています。そろそろまたバランスを取り直したいなと思っています。

ケネス・ブラナー監督
―― 日本のファンへ一言

もし、オペラを敬遠なさっているのでしたら、ぜひリスクをとってこの作品を観に行ってほしいと思います。この「魔笛」という作品は、1792年、シカネーダーが持っていたフライハウスという劇場で初演されたオペラなんですけれども、当時から人気があって、誰でも観に行けるようなエンターテインメントだった。

先日、友人の女性が、私に「モーツァルトのことなんて全然わからないから観にいけない」と言うので、「いや絶対知ってるよ」と答えたんです。ちょうどそのとき、つけたテレビのCMで「パパゲーノ」が歌われていて、彼女は、「この曲知ってる!」と言ったのです。「他にも知ってる曲があるよ」と、夜の女王のアリアを鼻声で歌ったところ、「ああ、それも知ってる」となりました。きっとみなさん、意識していなくても魔笛の楽曲をご存知だと思うんです。そして、たぶん誰が作ったかなんて知らないうちにモーツァルトの曲に魅せられているのだと思います。


(文・どらく編集部 河邉愛)


★「魔笛」は7月14日(土)より日比谷シャンテシネ・テアトルタイムズスクエアほかにて全国順次ロードショー

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