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「僕のピアノコンチェルト」 フレディ・ムーラー監督インタビュー


僕のピアノコンチェルト
©Vitusfilm 2006

「山の焚火」(1985)で知られるフレディ・ムーラー監督の新作「僕のピアノコンチェルト」は、3世代の家族を描いた物語だ。孫のヴィトスはピアノと数学に傑出した才能を持つ早熟の天才。父母はヴィトスの才能を伸ばすことに全力を注ぐ。しかし、それはときに過剰となって、愛情は支配に変わり、ヴィトスの内面をふさいでしまう。彼が心を開く唯一の相手が祖父だった。名優ブルーノ・ガンツが演じる味わい深い祖父と孫の交流が、3世代の家族物語という凡庸なテーマに陰影を与えている。来日したムーラー監督に、この映画にかけた思いを聞いた。(どらく編集部・菅光)



フレディ・ムーラー監督
●祖父と孫は「鏡を通して対峙させたような存在」

ムーラー監督は「祖父という存在は、社会的な責任を担い終わった人」と定義する。一方、若い父母はまだ社会的な責任を果たす真っただ中におり、「精神的な余裕がない」のだという。

映画の中の両親は、ヴィトスとともに都会のデザイン家具に囲まれたマンションに暮らす。自宅で開くパーティーでは、幼いヴィトスにピアノを弾かせてまで来客の歓心を買う。「天才少年の親」として自分たちの評価を高めるためでもある。いつしかヴィトスは親のアクセサリーとしての役割を負わされ、親が子を利用する場面が増えてくる。

対照的に、祖父は田舎で家具工房を営む。引退後の気楽な商売にも見え、のどかな風景の中で、祖父はヴィトスにのこぎりを渡し、木材を切らせる。迎えに来た母は当然、「手にけがでもしたらどうするの」と祖父に怒ることになる。

映画の中でも、祖父がパスタをゆで、幼いヴィトスにチーズをかけてやりながらしゃべる場面は印象的だ。赤ワインを片手に祖父は目線を低くしてヴィトスに語りかけ、孫のたわいない疑問や気持ちを丁寧にすくい取っていく。

「ヴィトスとおじいちゃんは鏡を通して対峙(たいじ)させた存在。決して対極にあるというのではなく、似たような存在です。おじいちゃんは年を取っても子ども心を持っていて、パイロットになるという夢をいまだに捨てきれない」(ムーラー監督)

父親が祖父のもとを訪れる場面もある。父親が運転するポルシェが田園風景の中にある祖父の工房に乗りつける。アンバランスな光景は、親子が生きる世界と価値観の違いを際立たせる。

フレディ・ムーラー監督
●子どもの願いをかなえるために親と社会は存在する

親のプレッシャーから自らを解き放つため、思春期に入ったヴィトスはある策略をめぐらす。真実に気づき、秘密を知るのは祖父だけだ。祖父はまた、孫の手を借り、パイロットになるという自分の夢も実現させる。祖父と孫は相互に助け合って生きている。

しかし、祖父の死もまた確実に近づいてくる。見舞いに来た孫に向かって、祖父は便箋(びんせん)を渡してくれと頼み、万年筆を手に取って手紙をしたためる。息子夫婦にあて「こんなに仲のいい夫婦は見たことがない」と愛情を示すと同時に、ヴィトスの秘密を打ち明ける。一方、追伸としてヴィトスに「お前はお前の星を目指しなさい」と書き残した。

ムーラー監督は「今、子どもに対する社会、そして両親の期待が強まりすぎている。子どもは親の期待を満たすために生まれてきたわけではない。子どもの願いをかなえるために、親とか社会が存在するということがこの映画のメッセージだ」という。

ブルーノ・ガンツが演じる祖父は、映画の中でヴィトスからは「おじいちゃん」、息子夫婦からは「おとうさん」と呼ばれ、固有の名前が出てこないように見える。世界中に存在する祖父という普遍的な役割を与えられているかのようだ。それは、1940年生まれで「もうすぐおじいちゃんになる」というムーラー監督の視線とも重なっている。

11月3日から銀座テアトルシネマほか全国順次ロードショー

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