「トウキョウソナタ」
カンヌでの受賞は思いがけないプレゼント
カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門・審査員賞(部門内2位にあたる賞)を受賞した「トウキョウソナタ」の完成披露試写会と記者会見が、6月4日に東京・恵比寿であり、黒沢清監督、主演の香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海らが受賞の喜びを語った。
●間違っていると思っていた
賞を受け取った黒沢監督は、「なにかの賞の対象になっているなんて知らなかったので、最初は、なにか間違っているんじゃないかと思った。でも素直に驚き、うれしかった。隠されていたプレゼントを最後に渡されたようで幸せ」と顔をほころばせた。
●受賞作は得意のホラーではなく
リストラされたことを家族に話せない父。漠然とした不安を持ちながらも主婦を続ける母。アメリカ軍へ入隊する長男。こっそりピアノを習い始める次男。いつのまにか溝が深まっていく家族。不協和音しか奏でなくなっていた家族だが、その旋律はいつしか一つにまとまってゆく。
「回路」などのホラー作品での国際的な評価も高い黒沢監督だが、今回は今までの黒沢ワールドとは異なり、現代の東京、線路沿いの家に住む普通の家族の、誰にでも起こりえる日常をていねいに描いた。
●満面の笑みを浮かべる香川
一家の長は香川。日本の父親を代表したような、頑固な父親を演じたが、記者会見では終始笑顔で、うれしさを全面に出して語った。「最高に幸せな気分。いまだにカンヌにいるような、夢のような一週間を過ごしました。カンヌ映画祭での上映後は、拍手が鳴りやまず、これまでにない手ごたえを感じました」。大きな目をさらに大きく見開いた。
香川扮する父親に嫌悪感を持ち、反対を押し切ってアメリカ軍へ入隊してしまう長男を演じた小柳は、「香川さんとの絡みのシーンでは、役者として初めて鳥肌がたった、全身が震えた」と語り、勝手にピアノ教室に通い出してしまう小学生の次男役、井之脇は、緊張しながらも、落ち着いて初々しく、「本当にこの作品に出られてうれしかったです。これが自分の俳優としての第一歩」と、語った。
●「キョンキョン」じゃない小泉今日子とは
黒沢監督は以前から小泉をスゴイ女優と感じていたという。
「笑顔を見せると『キョンキョン』だけれど、ふっと遠くを見据えるようなときの目線は、人の心を貫くようで、なかなか日本の俳優には見られない。今回も、起こっている物事の本質を、急に彼女だけが見てしまう目線をみごとに表現されたなあと、あらためて感服しました」
カンヌ映画祭に初めて行った小泉は、「監督とこの家族全員でレッドカーペットを歩いたこと。それだけで大満足していたので、日本に帰って受賞を知ったときは、こわいというか、身が引き締まるような感じがしました。この映画のことをきちんと伝えていかないといけないと思っています」。
今後の作品について問われた黒沢監督はこう締めくくった。「どこかホラー映画の監督のように思われているけれども、そればかりやり続けるつもりはない。今後は、これまでやったことのないもの、こわくて手を出せなかったもの、苦手だと思っていたものにできるだけチャレンジしていきたい」