
劇団四季と『ウェストサイド物語』−両者の出会いは、以降の四季ミュージカルの可能性を大きく拓かせるものだった。
1964年11月、ブロードウェーカンパニーによる『ウェストサイド物語』来日公演が、日比谷の日生劇場で行われた。この“日本で初めての本場のミュージカル上演”は、1961年に同作映画版が公開され、世にミュージカルブームがわき起こっていたこともあり、大きな話題に。2カ月、50回にもおよぶ公演は大成功を収めた。
実は、このカンパニーの来日招へいに奔走したのが、当時、日生劇場の役員を務めていた浅利慶太氏だった。本格ミュージカル待望論が盛り上がる中、ブロードウェー作品の完全上演を―。そこで選ばれた企画が『ウェストサイド物語』のプロデュース公演だった。
この上演に際しては、ブロードウェーでオーディションを実施、オリジナルと見劣りのないカンパニーが組まれた。日本での稽古も2カ月に及び、ジェローム・ロビンス自身も来日、直接指導。その結果、今日まで語り継がれる本格的な公演となった。
一方で「50回の公演をうち、20回は舞台を観た」浅利氏は、欧米作品のレベルの高さ、歌やダンスを通して表現される舞台の感動の大きさを目の当たりにし、いつか自分たちでも本格的なミュージカルを上演したいという願いを持つ。そして、ミュージカルのノウハウの研究、レッスン体制や俳優の育成など、長期的な展望に立った準備を始める。

やがて9年後の1974年。劇団一丸となった努力が実り、ついに四季版『ウェストサイド物語』が上演。稽古の2カ月間は、ジェローム・ロビンスの弟子 ボブ・アーディティによるダンス特訓が繰り返された。俳優は点滴を打ち、病院から稽古場へ通う日々を過ごしたという。しかし結果的に、この猛特訓が四季のダンス力を飛躍的に高め、公演は大成功。「劇団四季ミュージカル」のクレジットが、国内外で存在感を示す契機となった。
あれから30数年、四季は『ウェストサイド物語』を800回以上上演。オリジナルに忠実で、完成度の高い舞台は、常に観客の感動を呼び続けている。また、養成システムの確立により、俳優の実力も格段に向上した。数々の大型海外作品を成功させるなど、劇団四季の公演水準はもはや世界レベルとなっている。
『ウェストサイド物語』に取り組んだ四季の挑戦こそが、その後の四季ミュージカルの歴史を大きく切り開いたといっても過言ではないだろう。


『ウェストサイド物語』の制作アイデアが持ち上がったのは、初演からさかのぼること8年、1949年のことだった。ジェローム・ロビンス(演出・振付)、レナード・バーンスタイン、(作曲)、アーサー・ロレンツ(台本)の3人が、シェークスピア戯曲『ロミオとジュリエット』を下敷きに、現代版のミュージカルをつくりたいと考えたことに始まる。
当初は、ロワーイーストサイドでのストリートギャング抗争を背景に、ユダヤ人の若者とイタリア人女性とのロマンスを描く構想で、タイトルも『イーストサイド物語』と名づけられていた。しかし、三人が多忙のため制作は延期。その間にイーストサイドのスラム街は取り壊され、ギャングたちも移動してしまうなど、初期プロットは徐々に古くなっていった。そこで現状に則して、舞台をウェストサイドに変更し、登場人物も再度設定。さらに当時まだ新人だったスティーブン・ソンドハイムを作詞に起用するなど、若い才能も取り込み、再び制作作業が始まった。
こうして生み出された『ウェストサイド物語』は、従来のミュージカル作品とはあらゆる面で異なっていた。

当時の常識として、ダンサーとシンガーは分業制。別々のパートをおのおのが担当するというものだった。しかし、この作品では、30人以上の俳優が高度なダンスをこなしつつ、複雑な楽曲を完ぺきに歌唱する技術が要求される。それまでは歌唱の添え物でしかなかった“ダンス”の要素が初めて、歌と並ぶミュージカル表現の核にまで押し上げられた。
また人種差別という、当時のアメリカではタブーとされていた問題に真正面に取り組んだ点も画期的といえるだろう。登場人物たちが、愛と平和、そして争いのない理想の世界を希求する様を描く。それは、ハッピーエンドのラブコメディーが主流であった中、“ミュージカル”という表現方法の概念を覆す革命的な試みだった。
1957年9月26日、ブロードウェー・ウィンターガーデン劇場で開幕した舞台は、社会的なテーマをもった作品として、またたくまに反響を巻き起こし、734回のロングラン上演を達成。その後も、全米ツアーとして240回以上の公演を成功させている。
また1961年には映画版も制作され、その認知度はますます向上。もはやミュージカルを超えたミュージカルとして、不滅の生命を得ることとなった。

| 演出・振付 | ジェローム・ロビンス |
|---|---|
| 音楽 | レナード・バーンスタイン |
| 作詞 | スティーブン・ソンドハイム |
| 台本 | アーサー ロレンツ |
| 演出 | 浅利 慶太 |
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