失業中のサラリーマン、回転寿司の板前など、さまざまな人間のありふれた日常を、リアルに一人芝居で表現し続けている。挫折の陰が見え隠れする人たちに惹(ひ)かれるという。そのせいか作品にもどこか挫折感漂う、それでいて憎めない人物が多く登場する。
(文・井上理江)
バーという、あまりにも窮屈な場所に閉じ込められたバーテンが、夕方店を開けてから明け方閉めるまでさまざまな退屈しのぎをするというネタで、2時間に渡って演じました。これをやりながら、人はマイナスの状況にある時ほど力を出すもので、次の瞬間を肯定的にとらえ、前へ進もうとするものなんだなあと思った。
本当につらい挫折を味わった人ほどわき出てくる生きる力が強い。そこに魅力を感じるせいか、僕の作品には老若男女問わず、確かに挫折を味わったキャラクターが多いですね。ある人に「イッセーさんの芝居に登場するのは人から意見を求められない人、いわゆるおよびでない人が多いですね」と言われたことがありますが、まさにそのとおりで。
若いときから演じていました。経験を積んでいる分、演じどころとなる魅力がいっぱい詰まっているんです。特に昔のオヤジは頑固一徹で、自分だけの思想が背景にあって。そういう部分が僕らの世代からやや希薄になってきた気はしますが。
先ほどお話しした「バーテン」ネタを初めて演じた時、自分とは違う人物を丁寧に作り上げていくことが、僕にとって無上の喜びなんだなあと実感できたことが大きい。そのころはまだ売れていなくて、建設現場でアルバイトをしていて、このまま芝居を続けるかどうか、悩んだりしていたのですが、演じることこそが僕自身を肯定に向かわせてくれることに気づかせてくれた作品でした。
そう、今思い出したのですが、建設現場って日常でありながらも、シートで閉ざされた未完成な空間でしょう。そこから、完成された町並みや人々の姿を覗(のぞ)き見したりしていると、カメラのシャッターを押したように、ある瞬間の光景が脳裏に焼きつけられる。あの時の視点、人を見つめる眼みたいなものが、今の僕の芝居の原点になっている気がします。

1952年、福岡県生まれ。71年、演出家森田雄三氏と出会い、演劇活動開始。80年に現在の一人芝居の原型となる「バーテンによる12の素描」を上演、翌年テレビ「お笑いスター誕生」で金賞を獲得。以降、「イッセー尾形の止まらない生活」シリーズで脚光を浴びる。93年から海外公演スタート。映画「ヤンヤン 夏の思い出」(99年台湾)、「トニー滝谷」(2004年日本)、「ソンツェ(太陽)」(05年ロシア)などにも出演。エッセー、小説など著書も多数執筆。
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