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ひとインタビュー背水の陣、死も感じた75万字 源氏物語の右に出る作品ない 第四回 林 望さん

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二足のわらじに終止符

――学者としての専門も好色文学でしたね

そうです。そもそも私の卒業論文は「好色一代女における諸問題」というものでした。これなども戦前だったら発禁物で、今のアドルトビデオみたいな扱いだったんです。でも、今日ではひとつの文学として正当に見られているわけで、私にはどんなものでも正当に扱うことができるという信念があるんです。

――好奇心がどんどん広がるのですね

私にはもうひとつの性があって、一度始めたものは容易にはあきらめないというポリシーもあります。そうするとある時、二足のわらじを履きながら思うがままに好奇心の翼を広げていくことに無理がきてしまったのです。

このままでは長期消耗傾向になってしまう……。新しいことが何もできないし、授業のための研究も十分にはできなくなる。それに気付いた時、芸大は思い切って辞めようと思いました。ちょうど教員生活20周年、20世紀最後の年、そして自分自身の50歳の年でもありました。

――そうすると、50代半ばの今は、作家生活第二期ということになるでしょうか

というよりも、私にはまだ手がけなければならないライフワークが残っています。いつの日か絶対に「源氏物語」を書きたい。「林源氏」を。今までの人が漫然と訳していた「源氏」ではなくて、私が読めばこうなるというものをぜひ出したい。

3年先のライフワーク

――そのための準備は

はい、数年前に「往生の物語」という本を出したのですが、これは、「平家物語」の登場人物の死の有り様にスポットを当てたものでした。これは本来「源氏物語」でやりたいと思っていた手法なのです。いままでにも、いくつかそういうテストを繰り返してはいるんです。そういう集大成として林源氏を書くことが私のライフワークだと思っています。

実際、古今東西いろいろな小説を読んできても、源氏物語の右に出る作品は皆無です。あの時代にあんな物語が書けたというのは奇跡なんですね。あの時代のヨーロッパには神話しかない。それに比べても、「源氏物語」には人間心理のヒダヒダや、恋愛における男心が見事に書かれています。

――ずいぶん深遠な、長期的な取り組みですね

これまで和歌の研究もした、日記文学も勉強した、漢文も詩文もやった、中国哲学もやった、そういうすべてが、実は源氏物語を読み解くための経過だったのではないかと思えるほどです。でも、このライフワークに取り組むためには生半可では無理なので、あと3年くらいのうちに「国家の品格」くらいの大ベストセラーを書いて、それですべての仕事をなげうって、源氏に取り組めたらいいなあとそう夢見ています。

(写真)林望さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

子供です。ふたりの子供をイギリスに留学させるために、膨大な額の投資を行いました。そもそも林家には、子には惜しみなく投資せよという家訓があります。金は出すから徹底して勉強に励めと。かつて父親が私に投資してくれた分を今度は私が子供に行う。いずれ無形のかたちできっと返ってくると思っています。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

友人に「自分の中に成功したという思いが巣くってきたから引退する」といって、日本の第2位の取扱高を誇る外資系投資顧問会社の社長を退いた男がいます。岡本和久君といいます。今は、品格ある富を貯蓄するためのファイナンシャルアドバイザーをやっています。全然いやしいところがない。素敵な人格者です。

質問3
人生に影響を与えた本は?

やはり森鴎外の「渋江抽斎」でしょうか。私はあまり読書家ではなかったのですが、大学院時代に読みました。晩年の鴎外は抽斎に傾倒しています。自分自身を投影しているのかもしれない。私もまた、当時研究者を目指しながらも、いっこうに晴れない目の前の景色に、抽斎を重ねていたのかもしれません。

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