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ひとインタビュー新しい「何か」見つけると興奮 好きなものに触れて軸を戻す 第九回 菊池武夫さん

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オンとオフはバランス

――「こだわり」にどこまでこだわるか、そのさじ加減も難しい

僕ら世代に象徴される仕事オンリーの生きかたもよくないと思うけれど、逆に今の若い人たちが、働くよりも自分の時間を優先するというのもバランスが悪い。オンとオフ、どちらを大事にするかではなく、どちらも心底自分が楽しむことを基軸にして、向き合っていけばいいんだと思うのですが。

――菊池さんは、仕事も遊びも関係なく、夢中になるタイプ?

そうです。もともと興奮するタイプというか、これだ!と思った瞬間に熱中してしまい、仕事も淡々とこなすことができない。集中力もすごくて、たとえばショーを開催する時も、他を一切排除してすごいテンションで夢中になる。ボルテージも最高潮です。でも、その分反動も大きく、直後は一気に気持ちがダウンする。

――落差が激しいわけですね

これだ!と思える何かが次にない状態がとてつもなく苦痛で、落ち込むし、自分が情けなくなる。反対に新しい何かが見つかれば、すぐにまたエキサイティングするのですが。

――それにしても、41年間のデザイナー活動の中において、次々新しいことに挑戦されてきた

飽きっぽい性格なんです。同じことの繰り返しが嫌で。ただ、飽きると違う方向への模索ができるでしょ。ファッションはその繰り返し。基本的には洋服で、ショーなんかもよく考えてみると根本はどの時代も変わらない。でも、常に新しさが求められ、いろいろなことに挑戦しなければならない。そういう意味で、僕の性格に合っている世界だと思う。

――TAKEOブランド時代、プレッシャーを感じたことは?

ないですね。ただ、メンズものは時代によって特色があって、時には本来の自分とはかけ離れていくような作業も必要だったりする。その振り幅が大きくなってくると不安になり、自分で自分をニュートラルな部分に戻す作業はしていました。

――具体的にどんな方法で?

好きな時代の映画や音楽、写真や絵に触れる。自分が好きだと思うものや感覚は、誰でも必ず自分の真ん中にある。そこへいったん自分を戻したうえで、新たなことをスタートさせる。たぶん、僕がアーティストではないのは、その戻す作業をしているから。アーティストは絶対に戻さず、突き進んだ地点から新しいことを始める人たちだと思う。

――洋服はアートではない、と

あくまで人が着るものですから、アートに近いデザイン性を求めることはあっても、決してアートではない。その人がいかに美しくカッコよく見えるか、自身を表現するか、そのための道具なのだという考えは常に根本にあります。

見知らぬ地、体で感じる

――ところで、新ブランドを立ち上げる前の3年間が空白ですが

04年の秋から新ブランドの準備を具体的に始めていました。ただ、引退した直後は、ちょっと蒸発していました。 日本を車で2往復、縦断しました。自分の目線でいろいろなものが見たくて、できる限り高速道路も使わなかった。

――街を歩くのも好きだとか

はい、しかも、ものすごく速いスピードで歩く。子どものころ、東京都千代田区にある自宅から池袋あたりまでなら、平気で歩いて往復していました。今でも時間があれば、歩く。見知らぬ土地へ行き、そこにある生活を体で感じるのが好きなんです。いつか日本を歩いて横断するのも夢です。

――他にもやりたいことがたくさんある?

小説も書きたいし、写真も撮りたい。車のデザインもしたいし、映画も撮ってみたい。まあ、やれなかったとしてもあれこれ考えること自体が楽しい。だから、四六時中、いろんなことを考えてますね。

(写真)菊池武夫さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

1986年に購入した、ダイムラー社のリムジン。車は大好きなのですが、特にこのころは大きな車に興味が強かったので。でも、リムジンは自分で運転できないんですよね。せっかちな性格で、ついつい運転手にガラス越しに口を出し、指示をしていたら、運転手の頭に10円ハゲができてしまって……。今は車庫に置いてあります。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

若かりしころのヘミングウェイ。まさに、男の固まりというイメージがありました。映画俳優ならマーロン・ブランド。素直にカッコいいと思った。今はエコノミストのリチャード・クー氏。プラモデルやカメラそのものも自分で作ったりしながら、自分の人生を楽しんでいる。最近お会いした中では一番感銘を受けた人ですね。

質問3
人生に影響を与えた本は?

カミュの「異邦人」。若い時によく読みました。言葉に一つひとつ説得力があって、好きでしたね。今はハードボイルド。よく読むのはダシール・ハメットです。

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