若い頃は断然、都会的なローリング・ストーンズ派だった。ところが、ここにきてビートルズの良さに目覚めたという。「普遍的で大人っぽいメロディーが本当にステキで。すごいグループだったのだと、今さらながら気づきました」。今年10月の舞台「印象派」でもビートルズの曲を使うことにした。「まさかって感じ、自分でも」。夏木マリさんは自身の、予期せぬ変化をいま、心底面白がっている。
(文・井上理江/写真・小山昭人)
何となく芸能界へ入り、誘われるままに唄(うた)い、芝居も演(や)ってきたけれど、全然自分が解放されないし、何をしたいのかもわからない。そんな悶々(もんもん)とした時期が長く続いていました。その一方で、集団は苦手だけれどあの舞台空間は好きで、自分を鍛えるには絶好の場所だという感覚もあった。それで40代にさしかかる頃、本当に自分がやりたいことは何なのか、と改めて自問自答し、ひとりでがむしゃらに始めたのが「印象派」でした。余計なものをすべて捨てて、崖(がけ)から飛びこむつもりで。
今回、タイトルを「夏木マリを探して」としたのですが、これはまだまだ自分を探しきれていない、何よりの証拠で。ただ、この13年間で、少なくとも私は何が好きで、何を捨てればいいのか、何が足りないかを少しずつ整理ができた気はします。
そうです。それまでは多くのことを学ぶ準備期間といえるでしょうか。そして、いろんなことが整理できて何となく方向が見えてきて、そして、「印象派」でマリちゃん探しを始めてます、と自分探しのスタートラインに立てたような。かなり遅いのですが。
自分が解放されたという実感があったからです。回を重ねるごとにやりたいことがどんどん増えていったり、まだまだだという反省が次はこうしたいという意欲を駆り立ててくれたりしたのも大きい。私はやりきったと思えばスパッとやめると思う。でも続けているのは、その達成感にまだ至っていないからでしょうね。ずっと終わらないです、きっと。
そうですね。よりどころとなる作品ができたおかげで、他の仕事も楽しくやれるようになりました。それもよかった。以前はドラマ一つ出演するにしても全然余裕がなかったので。

東京都出身。1973年「絹の靴下」でデビュー。80年代より演劇へも活動の幅を広げ、芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊国屋演劇賞個人賞、ゴールデンアロー賞演劇賞など受賞。93年から続くシアターワーク「印象派」では、身体能力を窮めた芸術表現を確立。国内はもちろん海外公演も成功させ、高い評価を受けている。音楽活動では95年からの小西康陽プロデュース作品が注目され、2006年3月にはブルースバンド「GIBIE du MARI〜ジビエ・ド・マリ」(ボーカル)としてエイベックスよりデビュー。著書に「カッコいい女」(KKベストセラーズ)、「81-1」(講談社)。近作では、映画「シュガー&スパイス〜風味絶佳」(9月16日公開)、「アタゴオルは猫の森」(10月公開)、TVドラマ「介護エトワール」(NHK総合・9月18日放送)に出演。
夏木マリさんプロデュースの「印象派」8作目は、10月6・7・8日渋谷Bunkamuraシアターコクーン、10月11日鎌倉芸術劇場、10月15日岩国シンフォニーホールにて上演。
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