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ひとインタビューサラリーマンは仮面が肉体化 病得ても人生観に変わりなし 第十二回 小椋佳さん

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病院嫌いが月に1度の通院

――ところで今年は小椋さんにとって、胃ガン手術後5年というエポックな年でもあると思います。健康状態はいかがですか?

ありがとうございます。自分では術後5年という意識はありません。胃が4分の1になってしまったので食事が思うようにとれないのは辛いのですが、病院嫌いだった男が毎月一度、必ず通院検査するようになりました。おかげさまで検査の数字はすこぶるいいんです。それと、手術前は血糖値が瞬間的には400もあったのが、今は食べられないおかげで全く正常値です。僕の母親は59歳で糖尿病で亡くなっているのですが、ガンの手術のおかげで父親が亡くなった79歳くらいまで寿命が延びたかなと思っています。

――人生観には変化はありませんか

ないんです。皆さんにそう聞かれて、何か変わったことを期待されているのはわかるんですが。

でも、どうせ生きるならよりよく生きたいなとは思っています。今年の秋に35周年記念のコンサートツアーをやるのですが、最初スタッフに「ファイナルツアー」と銘打とうと言ったら怒られました。まだファイナルとするのではなくて、もっと前を見てくれと。

確かに、振り返ってみると、62歳にもなってコンサートをやれるともやるとも思っていなかったし、本当に恵まれたことだと思います。しかも客席に来てくださるのはだいたい40歳以上の方たちです。懐かしのメロディーではなくて、新作を披露させていただけるんだから幸せなことです。

――ツアーを前に、どんな意気込みなのですか

いや実は意気込むというよりも、この4カ月をどう無駄なく生きようかなと思っていまして。ツアー中というのは案外暇なんです。移動と本番以外はやることがないんですから。6年前のツアーの時は、ちょうど再入学した大学の修士論文を書いていました。3年前のツアーの時はエッセーを1本書いたかな。今回は楽屋にノートパソコンを持ち込んで、やっぱり何か書くことになるんでしょうね。

新作は、生き直しがテーマ

――同時に8月にはCDも2枚発売されています

新作と、35年間のベスト35曲をまとめたものとが続けて出ました。新作の方は、こんなに歳をとりましたという歌ばかり。団塊の世代が退職する季節になって第二の人生が話題になっていますが、新作は全編、生き直しということを小椋がどう考えているかというテーマです。たとえば、本当は恋愛の歌にしたほうがいいような作品も、あえて自分の記憶喪失とどう向き合うかというテーマにしたりしています。

――それもまた今の小椋さんの日常から出た日記的な作品なのでしょうか

そう、創作が日記であるかぎり……、僕には引退はないのかもしれませんね。

(写真)小椋佳さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

投資という意味では、僕の青春を暗くした最も大きな理由の一つであり、その後他人とは違う詩をつづれるようになった理由でもある「本」ですね。高校2年の時にある国語の先生との出会いがあり、それ以降哲学書を読みまくりました。他に買い物をするということがなかったから、神田の書店街ではずいぶん本を買いました。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

青春時代に最も影響を受けたと言えば、お釈迦(しゃか)様でしょうか。生きるとは何か、当時いくら考えても答えが出てこない中で、哲学としての仏教に興味を持ちました。そして、その最高峰にいるお釈迦様を理想像化した時代があったのです。現代の釈迦になろうとして、自分にはとてもそんな力はないと後で気付いたりしていたのかな。

質問3
人生に影響を与えた本は?

その中で出合った一冊と言えば、アルベルト・モラヴィアというイタリアの作家の本ですね。本人にはそんな意識はなかったのでしょうが、サルトル以前の実存主義のはしりのような作家で、非常に気だるい倦怠(けんたい)感の漂う作風でした。「無関心な人々」とか「軽蔑」といった作品が代表作です。

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