名門オーケストラの首席奏者を務め、ジャズやポップス、邦楽奏者とのジャンルを超えたコラボレーションを実現するなど、幅広く活躍されているオーボエ奏者・宮本文昭さんが、2007年3月末で演奏家としての活動に終止符を打つ。
節目が来るのを待つのではなく、自ら節目を作って、次のステップに進むためだと語る。40年余り続けてきたオーボエから自らを解き放つ。
(文・井上理江/写真・田中史彦)
気負いなく、楽しんでやっています。僕のコンサートはトークから始まるんです。スタッフからは「演奏がだれるし、信用度がなくなるからやめてください」と言われます。でも、僕にとって仕事とは、自分の持っているものをみなさんにお見せしてそれを楽しんでもらうことであり、そのためのトークだと思っているので、このスタイルを貫いています。実際、「宮本さんのコンサートはオーボエ漫談だね」「お笑いのようなしゃべりから、演奏に切り替わった途端に顔つきが変わる。その瞬間を観(み)るのが好き」と喜んでくれているお客さんも多いですしね。
いよいよやめるときだと思ったのは3年前ですが、実は、オーボエを始めた10代のときから、一生やるとは思っていませんでした。
おそらく育った環境が大きいと思います。僕の祖父は工場や骨董(こっとう)屋などいろいろな商売を経験してきた人で、父も洋服屋、コーラスグループのマネジャーを経て藤原歌劇団のテノール歌手となっている。さらに、50代半ばで歌をあっさり辞めて母親とカフェを始めたりね。そういう祖父、父を見て育ったせいか、一生一つの仕事をし続けるという感覚がそもそもないんです。むしろ、40年もの長い間、オーボエを続けてきたこと自体、僕にすればすごく意外で、ずいぶんまっとうな人生の歩み方をしてきてしまったなと思うほどです。
僕はクラシックがやりたくて、そのためのツールとしてオーボエを選んだだけなんです。だから、奏者としての自分への未練はない。ただ、オーボエという楽器が僕を音楽家として成長させてくれたのは事実。感謝しています。実にさまざまな人々に引き合わせてくれ、視野を広げてくれた。「オーボエやめます」と言えるくらい興味の幅を広げることができたのも、他ならぬオーボエのおかげです。
いろいろです。決して引退ではないし、音楽を辞めるつもりもない。ただ、楽器を置いた向こうにある、次のステップを目指したい。蓄積してきた音楽の経験を、より幅広いフィールドで生かしていきたいと思っています。
オーボエ奏者である限り、どうしても「オーボエを吹いてください」となってしまう。でも、「辞めました」と宣言したらどうなるか。「じゃあ、結構です」と切られるか、「では、今の宮本さんに何ができますか?」と相談してくれるか。どんな人がどんなふうに今の僕を評価し、活用してくれるか。それがどきどきするし、楽しみでしかたないですね。
小澤征爾さんに手ほどきを受けて挑戦しました。技術は圧倒的に足りないと思うのですが、プレーヤーの立場を長く経験しているのでどういうアプローチをすれば、奏者が理解しやすいかはつかめました。とはいえ、指揮活動に専念するわけではなく、音楽会のプロデュースや作曲などにも今までとは違った立場でかかわっていければと思っています。

1949年東京生まれ。15歳のとき、テノール歌手の父がNHK交響楽団と共演した「第九」を聴いて鳥肌が立つほど感動し、クラシック音楽にかかわらずにはいられないと、オーボエを始める。68年桐朋学園高等学校音楽科卒業後、北西ドイツ音楽アカデミーへ留学。オーボエの名手ヘルムート・ヴィンシャーマン氏に師事する。その後、75年エッセン市立交響楽団、77年フランクフルト放送交響楽団、82年からはケルン放送交響楽団で首席オーボエ奏者を歴任。2000年より活動の本拠地を日本に移し、その活躍の場を広げる。NHK連続テレビ小説「あすか」のテーマ曲、映画「明日の記憶」などの音楽を担当したほか、さまざまなジャンルの音楽家と共演するなど、常に内外の注目を集め続けている。現在、東京音楽大学教授。
宮本文昭コンサート
問い合わせ先/ジャパン・アーツ
電話03-3499-8090
いずれの公演も、詳しくは宮本文昭さんの公式ホームページへ。
※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Firefox1.5以上、Macintosh Safari 1.3以上、Firefox1.5以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。