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就職難を前に本気になった

――バイオリンを続けてこられたのはなぜ

辞める勇気がなかったからです。こんなに一生懸命やってきたのに、辞めてしまったらゼロになってしまう。それが怖かったんだと思います。

――それだけ打ち込んだ

ずっとではないですよ。死ぬほど勉強した時期もあれば、目標をなくしてやる気をなくし、最低限の練習しかしなかった時もあります。本気でやらないといけないと思ったのは、音大生は就職先がないという現実に直面した時。あんなに一生懸命練習してきたのに私たちは食べていけないの?と思った瞬間、だったら絶対に食べていける道を探してやろうと思いましたね。それで留学し、向こうでオーケストラに入ったりして、バイオリニストとして生きる手立てを見つけた次第です。

――高嶋さんは、バイオリンを真摯(しんし)というか、どこか神聖なものとしてとらえている気がします

そう。私はクラシックの垣根を取り払った代表みたいに言われますが、実はバイオリンやクラシックに対しては誰よりも高い敷居を持っていると思います。私にとっては崇高な、特別な存在です。気も抜けないし、手も息も抜けない。常に緊迫感があります。

――そこまで魅了されるのは

常に深い感動を与えてくれた音楽がクラシックであり、バイオリンだったから。もちろん、クラシックを聴く人が偉いという気持ちは全然ないです。実際、うちの主人はヘビメタが大好きで、ヘビメタのライブから帰ってくるともう魂抜かれたようになっているし。好きな音楽は人それぞれでいいと思います。

限界に挑戦する自分にうっとり

――年間100本以上もなさるコンサートの魅力は

毎回、お客さまの反応が違うところ。家での練習の100倍も吸収できるものがあるし、勉強にもなりますね。どちらかというと、地方の小ホールでのコンサートが好きです。近所のおばさんが「今日は店のシャッターを早めに閉めて聴きに来たのよ」「カレンダーに丸つけて楽しみにしていたの」なんて心待ちにしてくれていて、私の生の演奏に耳を傾け、心を澄まして聴いてくれる。何よりもうれしい。

――練習は欠かさないのですか

もちろん。1日でも練習を怠けると、手が不思議な感じになるので。それに時間は作ろうと思えば作れるんです。むしろ忙しい時ほど食事も完璧(かんぺき)に作ったりして、主人に「別に今日あえてここまで作らなくてもいいのに」と言われたりします。でも、限界に挑戦する自分にうっとりするのも、意外に好きだったりしますね。

――完璧主義ですね

そうですね。今日は完璧だったなあと思って眠るのが好き。小さいころからの習慣で寝る前に必ず今日の復習と明日の予習をしているので、今日は何をしようかと悩むこともないですね。

――ご主人とは、好きな音楽といい時間の使い方といい、対照的です

主人はよく昼寝をするんです。私の実家では昼寝なんてしようものなら「お前は病気か」と怒鳴られたりしたので、結婚前までは昼寝をする人の存在自体を認められなかった。でも、主人はすごくいい人で、私よりもずっと人に好かれているし、仕事もちゃんとしている。主人のおかげで、価値観の違う人間がいるんだということを認められるようにはなりました。私の方が人生を無駄にしているのかもしれないし。

――来年2月、いよいよご出産。どんな母親に

厳しいと思います。「12人のヴァイオリニスト」で人を育てる難しさを痛感しているところなので本当にどう育てていくか、課題ですね。ただ、わがままな子供には育てません。私のじゃまもさせない。大人に生かさせてもらっているのだという意識をちゃんと持って、人として常識のある子にしたいと思っています。

――バイオリンは

させたくないですね。一生懸命やってもダメだった時に取り返しがつかなくなるから。それだけリスクが大きいんです、バイオリンは。

(写真)高嶋ちさ子さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

ストラディバリウス1736年製(愛称ルーシー)です。3年前に縁があり、手に入れることができました。今まで使っていたバイオリンとは一線を画すというか、大げさに言えば違う楽器のよう。日々違う顔を見せてくれるし、成長させてくれる。こちらの要求によって音の出方も違うので、弾くたびに新しい扉を開いていく、そんな心地よさがあります。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

最近だと高田純次さんかな。これまではずっといい加減なオヤジだなあ、あんなふうにいい加減に生きていけたらいいなあと思ったりしていたのですが、今年出された著書「適当論」(ソフトバンククリエイティブ)を読ませていただいたら、意外にご自身の哲学があって、生き方にもこだわりをお持ちで。あなどれないオヤジだなあと改めて思いました。

質問3
人生に影響を与えた本は?

藤原正彦さんの本。もう大ファン。今の私の一番ブームです。「国家の品格」など数多くの著書を読ませていただき、日本を変えるのはこの人しかいないと思いましたね。できれば、これから生まれてくる子を預かっていただき育ててほしいと思うほど。実は、20代前半の留学中、アメリカのスケールの大きさに精神的にまいっていた時があったんです。その際、藤原先生の「若き数学者のアメリカ」を読んで日本のすばらしさに気づかされ、救われたことがありました。そして今なお愛読させていただいていると、あんなすごい人でも、時代や住む場所の変化とともに意見も変わったりするんだなと気づかされ、そこがまた面白いなあと思っているところです。

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