風が吹くように現れたから風吹ジュン。そう名づけられた芸名どおり、苦労を重ねながらも、それを微塵(みじん)も感じさせない軽やかさがこの人の魅力でもある。「もし、昔のご自身が今の風吹さんを見たらどう思うでしょうか」と質問を投げかけると、ちょっといたずらっぽい目をして笑った。「私、設計図どおりなんです」と返ってきた。
(文・井上理江/写真・田中史彦)
特別に理想の女性像があったわけではなく、自分なりの価値観を昔から持っていて、それをずっと温めながら歩んできている、という意味です。困難や危機的状況が押し寄せてきたり、世の中に対して抗(あらが)ってきたことも多かったけれど、わりとポジティブな性格で前に向かって突き進んできたし、自分の価値観だけは貫き続けてきた。きっと、誰にもわからないだろうなあと思いつつ。心の奥底でひそかに掲げていた人生設計図どおりに生きてきたという感じでしょうか。
彼女の人生は設計図どおりではなかった。というか、そういった発想すらなかったかもしれませんね。夫の愛人や夫以外の男性の出現、カプセルホテルの従業員やそこで出会った老女など、家庭以外のコミュニケーションができたことで、敏子は今まで考えもしなかった自分に気づいていく。「魂萌え」って、自分への気づきだと私は解釈しています。
敏子はそれまで家庭の中でリアクションだけで生きてきた、つつましやかな女性だと思う。自分の考え方や気持ちで行動することがまったくなかった。それが、次々襲いかかるショッキングなできごとや人々に対峙(たいじ)することで、自我が芽生え、それが原動力となり行動を起こすようになっていく。その心、魂の変化が映画ではよく描かれていると思います。
敏子の魂を単なる女の「萌え」にとどまらせたくはない。映画でしか表現できない、リアリティーのある敏子像を描きたいという阪本順治監督の思いが、「手に職」につながったんだと思います。この展開、好きですね。観(み)た方々の多くが元気をもらったと言ってくださるのも、こうしたメッセージがちゃんと受け取れる映画になっているからでしょうね。
あれは、世の中に対して敏子が嘔吐したわけです。実は脚本にはなかったシーン。何がこの映画では言いたいのか、敏子をどう伝えたいのか。それを常に現場で監督も役者も考えていた。だから私も敏子を演じるというより、どう表現するかという感覚でした。面白かったのは、私自身、主役という感じがしなかったこと。一人でいくつものわき役をやっているような。たぶん、それが私の表現したかった敏子だったのかも。
ストレスってマイナスイメージにとらえられがちだけど、私は心のバネになる。人が成長していく上で大きな力を引き出してくれる大切なものです。
たぶん、ストレスに甘えているんじゃないかな。極端に言えば、ちゃんと生きていないというか。自分との闘いを避けている。だから、余計にストレスがマイナスに作用してしまうのでは。

1952年富山県生まれ。「寺内貫太郎一家2」(75年/TBS)で女優デビュー。79年「蘇る金狼」(村川透監督)での熱演が評価される。91年「無能の人」(竹中直人監督)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。98年「コキーユ」(中原俊監督)で報知映画賞主演女優賞を受賞。魅力的な大人の女優の代表格として男女両方から支持され、幅広い演技力で映画だけでなくドラマやCMなど多方面で活躍。主なTVドラマ出演作に「ほんまもん」(2001年/NHK)、「輪舞曲ロンド」(06年/TBS)、映画出演作に「カリスマ」(00年/黒沢清監督)、「ベロニカは死ぬことにした」(06年/堀江慶監督)など。「ゲド戦記」(06年/宮崎吾郎監督)には声優として出演。
シネカノン有楽町、渋谷シネ・アミューズ、新宿ジョイシネマ3、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー公開中。
出演/風吹ジュン、田中哲司、常盤貴子、加藤治子、豊川悦司、寺尾聰、三田佳子ほか 監督・脚本/阪本順治 原作/桐野夏生(「魂萌え!」婦人公論文芸賞受賞 毎日新聞社刊 新潮文庫)音楽/coba 主題歌/「tamamoe」withヤドランカ&ブルガリアン・ヴォイス 製作/李鳳宇、河合洋、水野文英 プロデューサー/椎井友紀子 製作/シネカノン、ハピネット、朝日放送 企画・制作・配給/シネカノン
第19回東京国際映画祭コンペティション部門正式出品作品
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